要約:JPLを離れ、7月よりジョージア工科大学の准教授に着任することになりました。ロボティクス、AI/ML、宇宙システム分野の学生およびポスドクを募集しています。興味がある方はこのフォームからご連絡ください。
1989年8月25日の、6歳の僕へ
ボイジャー2号が海王星を離れ、君の心に夢が宿り始めた頃だね。
君は宇宙オタクのお父さんの隣に座って毎日ワクワクしながらボイジャーのニュースを見た。君はあの美しい青い惑星に心を奪われた。そして人間が作った小さな機械が、12年もの歳月をかけて広大な太陽系を旅して最遠の惑星までたどり着き、美しい画像を送り返し、数々の発見を成し遂げたことに魅了された。
そのとき君は決めたんだ。大人になったらJPLに行って、ボイジャーのような宇宙船を作ると。
それは、君の一生の夢になる。
もしその夢が24年後に叶うと言ったら、驚くだろうか?君は火星ローバーの自動運転をプログラムし、将来の宇宙船のためのAI研究に携わり、そして「EELS」と呼ばれるヘビ型ロボットの開発チームを率いることになる。EELSはいつか土星の氷衛星エンセラドスの地下の海を探査し、地球外生命を探すかもしれない。そんな信じられないような出来事が、すべてJPLで起きたんだ——そして君にも起こる。
そして君は父親になる。素晴らしいと思わないか?この宇宙でもっとも貴重なふたつの宝物を授かるんだ。男の子は君にそっくりで、LEGOで火星ローバーを作る。女の子は時々EELSの絵を描いてくれる。夜空の赤い惑星を指さして「ここでパパのコードが動いているんだよ」と言うと、二人は目を輝かせる。口には出さないけれど、君の仕事を誇りに思っていることが伝わってくる。それ以上に幸せなことはない。
やがて君は気づくだろう。JPLでの仕事は、ただエキサイティングなだけでなく、深い意義のあるものだと。僕らは単に宇宙船を作っているわけではない。人類の最も根源的な問いに答えるためにやっているのだ。宇宙はどのように始まったのか。生命はどのように生まれたのか。私たちは宇宙でひとりぼっちなのか。君ももうすぐこうした問いを考え始める。そしてそれはずっと心に残り続ける。
もちろん、これらの問いに答えても誰もお金持ちにはなれないし、貧困や病気に苦しむ人を救うこともできない。それでも、僕は自分の心に正直であるべきだと思うんだ。人間には、お金にならなくてもやらなければならないことがあるのだから。
もし僕がJPLを辞めると言ったら、君は頭が狂ったと思うだろうね。
どうして夢だった場所を去るのだろう?
僕の夢が変わるからではない。JPLが変わるからだ。
2010年代後半、JPLが火星ローバー・パーサヴィアランスの準備を進めていた頃、JPLには「次は火星の先へ」という空気があった。木星や土星の氷衛星へ行き、生命を探すのだ。君はじきにエウロパ・ランダー計画に携わる機会を得る。氷をサンプリングし、地球外生命の兆候を探すミッションだ。君は胸が高鳴るほど興奮する。しかし残念ながらその機会は失われる。2018年の選挙の影響が波及し、最終的にそのミッションは中止されてしまう。
でも大丈夫だ。君にはさらに大きなチャンスが訪れる。さっき話したエンケラドスのヘビ型ロボットだ。まだ初期段階の研究だけど、順調に進めば2040年代には実現するかもしれない。生きている間にエンセラドスの海を見て、もしかしたら生命に出会えるかもしれない——そう思うと、君はこの上なく興奮するだろう。
だけど、EELSもまた打ち切られる。「遠すぎる未来」のことだからという理由で。
その後の数年間で、JPLは大きな困難に直面する。三度にわたる大規模なレイオフが行われ、同じ夢を共有していた多くの仲間が去っていく。
その結果、JPLは内向きにシフトせざるを得なくなる。長期的なビジョンよりも短期的な機会を追うようになる。僕はそれを責めるつもりはない。誰がこれ以上のレイオフを望むだろう。しかしその結果、JPLの研究開発の焦点は月ミッションへと移っていく。
誤解しないでほしい。僕は月ミッションにも心からワクワクしている。君はこれからアポロの本を何度も読み、紙で司令船と機械船の模型を作り、ニール・アームストロングごっこをするだろう。つい先週、アポロ17号以来初の有人月ミッションであるアルテミス2が地球に帰還した。(そう、信じられるかい?人類が再び月に行くのは2026年まで待たなくてはいけないんだ。)僕は毎日、アルテミスのニュースを追っていた。君がボイジャーのニュースを追っていたように。君は月に関するプロジェクトにも関わることになるし、それを心から楽しむだろう。でも、それは君の最終的な目的ではない。
宇宙を取り巻く環境も大きく変わる。1989年には、ほとんどの宇宙ミッションはNASAのような政府機関によって主導されていた。しかし2026年には、君がまだ聞いたことのない新しい民間企業がほぼ毎日のようにロケットを打ち上げるようになる。本当にすごいことだ。宇宙時代は本当にやってくるんだ。だから当然、JPLも民間企業との協業を模索する。君もその一端を担い、その役割を楽しむだろう。でももちろん、民間企業は経済的合理性によって動く。生命の起源や宇宙の成り立ちといった根源的な問いは脇役に回らざるを得ない。
そして君は頑固だ。君の未来の妻がたびたび呆れるくらいに頑固だ。アルテミスや民間から新しいエキサイティングな機会がいくら来ても、君の心は火星の先にある。氷衛星、海王星、トリトン、そしてその先へ。ボイジャー2号から受け取ったあの夢は、決して君を離さない。
だから先週の金曜日、僕は上司にJPLを去ると伝えた。でも本音を言えば、JPLの方が僕から去っていくように感じる。

それで、君は次にどこへ行くのだろう?
自然な選択肢はアカデミアだった。君は研究者肌だから。そして自分の進む道を自由に描くことができるからだ。
君はいくつかの大学で面接を受けて、自分の夢を売り込む。そして幸運にも、その夢に本当に共感し、サポートしてくれる場所に出会う。アトランタという街にあるジョージア工科大学の航空宇宙工学科だ。(ちなみに1996年にここでオリンピックが開催されて、日本は柔道で大活躍するけど、あまりネタバレしないで方がいいよね。)
ジョージア工科大学で君は・・・僕は、何をするのだろう?
答えはシンプルだ。僕たちの夢を追い続けることだ。
僕は誰も行ったことのない場所を探査するロボットを作り、人類の最も根源的な問いの答えを探しに行く。ボイジャーがそうしたように。
ジョージア工科大学は大きな冷凍コンテナを用意してくれる。アトランタにエンセラドスを作るんだ。僕は、氷の上を歩き、クレバスを降り、地下の海へ潜り、生命を探すロボットを作るつもりだ。そんなミッションを自分の生きている間に見たい。それを決して「遠すぎる未来」と思っては行けない。僕の人生に残された時間はそれほど長くないからだ。(信じられないかもしれないけど、40年はあっという間に過ぎる。そして次の40年もきっと同じだ。)
そうしたロボットは賢くなければならない。だから僕はAIの研究にも取り組む。1989年には信じられないかもしれないけど、2026年にはAIは車を運転し、算数の宿題も解いてくれる。(でも数算数ちゃんと勉強するんだよ!)この驚くべき能力を未来の宇宙探査に活かしたい。
そして数年のうちに、月へロボットを飛ばしてこうした技術を実証したいと思っている。さっき書いたように月探査はそれ自体魅力的だ。でも同時に、理想的な実験場でもある。地球からたった3日で行けるからだ。
もちろん、アカデミアはすべの悩みが魔法のように消え去る虹の彼方のお花畑ではない。科学的な宇宙探査のための研究資金は限られている。だから僕は、月のプロジェクトに取り組んだり、民間企業と協力したり、あるいは宇宙以外の研究にも関わることになるだろう。大丈夫だ。JPLでそうだったように、きっと楽しめるはずだ。アカデミアの自由度の高さは、荒れた海を越えて夢へとたどりつくための助けになると思う。そして何より、アイデアと想像力にあふれた若い人たちと一緒に研究できることを心から楽しみにしている。
僕はJPLを離れる。でも夢を手放すわけじゃない。そしてJPLを自分の中に持っていくんだ。
君がワクワクしてくれているといいな。でもきっと、JPLを離れることにまだ怒っているよね。
5年後か10年後に、また君に手紙を書くよ。そのとき僕は君の夢にどれだけ近づけているかな。
2026年4月19日の、43歳の僕より

