ベストセラー科学絵本『ロケットかがくfor babies』日本出版に際して

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はじめて絵本を和訳する機会をいただきました。『ロケットかがくfor babies』という科学絵本。英語圏で総計100万部売れているシリーズからの一冊です。今日、お店に並ぶ予定です。

訳に加え、本の冒頭と末尾に二つの短文を寄稿しました。それらを転載します。

訳者より

 どうして子どもは、昔の大人たちがわからなかったことをいとも簡単に理解するのでしょうか。「地球は太陽のまわりを廻っているんだよ」「おばあちゃんのおばあちゃんの、ずっと昔のおばあちゃんはお猿さんだったんだよ」こんな話を僕はよく娘のミーちゃんにします。数百年前は最も教養のある人すら迷信に囚われ理解できなかった概念なのに、21世紀を生きる5歳の彼女は息をするように吸収します。

 事実、人類は賢くなっています。百年近くにわたって世界各国の平均知能指数が上昇し続けている現象が知られており「フリン効果」と呼ばれています。その上昇率は極めて高く、現代の平均的な子が百年前にタイムトラベルしたら上位2%の天才児になるほどです。その要因には諸説ありますが、環境的要因だろうというのが一般的な説です。教育が果たした役割の大きさは言うまでもないですし、幼少期から本書のような書籍で論理的思考に触れる機会が増えたことも一因でしょう。

 現代ではほとんどの人が地動説や進化論を受け入れています。しかし、まだ人類は迷信から解き放たれたわけではありません。コロナ禍ではワクチンに対するデマが大きな社会的問題になりました。日本では「代替療法」という名の詐欺が放置され多くの命を奪っています。アメリカでは気候変動をフェイクだと決めつける右翼論客が幅を利かせています。そしてデマや似非科学はSNSや無責任なメディアにより拡散されます。

 ですが、僕は楽観的に考えています。科学的思考に慣れ親しんだ今の子どもたちが大人になる頃には、社会全体の科学リテラシーは向上し、似非科学や迷信に惑わされる人はほとんどいなくなるでしょう。天動説が科学から歴史になったように。きっとあなたのお子さんや僕の娘は、あなたや僕よりも賢くなります。そして未来の人類文明は今よりももっと良くなるに違いありません。

小野雅裕

NASAジェット推進研究所

解説

他の多くの技術と同じように、飛行機やロケットも子どもの夢から生まれました。ライト兄弟は幼少期に父から与えられたおもちゃのヘリコプターに夢中でしたし「ロケットの父」と呼ばれるロバート・ゴダードは少年時代にS F小説を読み耽ふけり、火星に行く船をつくることを夢見ました。

本書には、ライト兄弟やゴダードが実現させた揚力や推力を生み出すしくみが、直感的かつエレガントに説明されています。「おい、ベルヌーイの定理が抜け落ちているぞ」などと顔をしかめることなかれ。専門書ではないので説明は完全ではありませんが、内容は正確ですし、親子で科学的直感を身につけるには最高の1冊です。

本書では日本語の特徴を生かした楽しい訳を心がけました。娘のミーちゃんが1 歳のころ『だるまさんが』や『もこ もこもこ』の絵本が大好きで「びろーん」「もこもこ にょき」と一緒に声に出しては笑い転げていたものです。絵本作家の先人たちは、オノマトペの表現をうまく用いることで子どもが楽しくなる魔法を編み出したのでしょう。それに倣ならい原書にはない擬音語、擬態語を多数入れました。勉強も科学も楽しさが出発点。ぜひ「ふわっ」「どっかぁーーーーん!」と一緒に声に出して語感を楽しんでください。

(中略)

冒頭に紹介したゴダードが「ロケットの父」と呼ばれるゆえんは、本書に説明されているロケットの原理で宇宙を飛べることに最初に気づいた一人だからです。しかし当時、彼が称賛されたかというと、残念ながらそうはなりませんでした。それどころか、新聞にこう書かれてしまいます。

「ゴダードが作用・反作用の法則を知らず、真空では力の作用が働かないことを理解していないのは馬鹿馬鹿しい。高校で教わる程度の知識すら彼に欠けていることは明白である」

現代を生きる私たちは、新聞のほうが間違いであることを事実として知っています。本書に記したように「ねんりょうが ごおぉぉぉぉって う ろへ とびだすと びゅーんって まえに とんでいく」のが作用・反作用の法則で、これこそが空気のない真空中でも前に進める理由です。もちろん百年前の大人たちにはわからなかったことも、みなさんのお子さんは簡単に理解できるでしょう。

ゴダードは、世間から冷たい目を向けられても子どもの頃の夢を信じ、くじけずに研究を続けました。そして世界初の液体燃料ロケットをつくり上げたのです。彼のロケットは宇宙には届きませんでしたが、現代のロケット技術の礎となりました。詳細は、拙著『宇宙の話をしよう』『宇宙に命はあるのか』(ともにSBクリエイティブ)に記してあるので、興味のある方はご覧ください。

ゴダードはこう言いました。「昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実となる」

では、いったい誰が昨日の夢や今日の希望を明日の現実にするのでしょう。それは本書を読んでいる、あなたのお子さんかもしれません。

 

『ロケットかがく for babies』

作・クリス・フェリー

訳・小野雅裕

サンマーク出版

10月19日発売

シリーズには他に、村山斉さん訳の『そうたいせいりろん』『りょうしりきがく』『ニュートンりきがく』があります。

シリーズホームページ:https://babyuniversity.themedia.jp/

 

 

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