「作家本人が読書感想文にアドバイスします!」企画に応募していただいた作品の中から2点を例に取って、より良い感想文を書くポイントを解説します。
今回のポイントは
①時系列に書く必要はない
②字数に合わせてテーマを絞る
の2点です。
①時系列に書く必要はない
まずは「バタフライ」さんの作品を紹介しましょう。
170812 読書感想文・宇宙を目指して海を渡る - hasshi Hashimoto (1)とてもよく書けている感想文です。僕が以前の記事に書いたアドバイスの通り、感想が自分自身の体験とリンクして書かれており(たとえば部活でコーチに言われたままではなく自分で考えて練習した方がタイムが伸びた話など)、「自分ごと」として読み手に伝わってきます。
全体にストーリーがあるのも良い点です。父親に無理やり読まされた本で最初は気が進まなかったが、読んでみると気付きがあった、という心境の変化が綴られています。ただ気付かされたことを書くだけではなく、こうして変化を書くことでストーリーが生まれ、より読者の共感を得ることができます。
ただ、問題はこのストーリーが最後まで読むまで見えない点です。最初の1ページだけ読むと「父に勧められしぶしぶ読んだ」「大人向けでよく分からなかった」と冷めた印象しか伝わってきません。感想文を読む先生や審査員は何十、何百という作品を読むのでしょうから、1ページ目でつまらないと思ってしまったら、そのあとを読んでもらえないかもしれません。
おそらく、バタフライさんは自分の心が感じた通りの順番に、素直に書いたのでしょう。ですが、文章は時系列に書く必要は全くありません。
僕ならば、「最初はしぶしぶ読まされた本だったが、読んでこんな気付きを得た」ということを、冒頭の一行目に書いてしまいます。ストーリーの核心である「変化」を先に言ってしまうのです。すると読書は、「ほう、じゃあその変化はどうして起きたのかな?」と気になって、感想文の続きを読みたくなると思います。
オチを先に言ってしまってはつまらなくならないか、という心配は無用です。小説や映画でも、結末から始まって過去に戻るようなものはたくさんありますね。例えば名作映画「初恋のきた道」は登場人物の葬式のシーンから始まり、40年前の初恋の物語にフラッシュバックします。昨年公開された「君の名は」も冒頭で彗星が地球に降ってくるシーンを見せてしまっていますよね。あえて核心部分を先に見せてしまうことで、「何があったんだろう、もっと読みたい/見たいな」という気持ちを喚起させているのです。
もちろん、必ずしもオチを先に言うのが正解ではありません。「Star Wars Episode 5」や「猿の惑星」のように、オチを先に言ってしまっては作品が台無しになってしまう場合もあります。どういう順序で文章を構成するかは内容次第です。とにかく大事な点は、文章の時間軸は未来から過去へ自由に戻っても良い、ということです。
②字数に合わせてテーマを絞る
次に、鈴木梨々花さんの感想文です。
宇宙を目指して海を渡る(枠なし)-1 - 鈴木梨々花「目的と目標の違いはなんだと思いますか」という出だしが素晴らしいです。たった一文で核心に切り込み、しかも「なんだろう?」と先を読みたい気持ちにさせます。僕も普段文章を書いていて、出だしの一文にいつも苦労します。なかなかこのようなインパクトのある出だしは見つかりません。作家の素質があるんじゃないかと思います!
また、バタフライさんと同様に、感想を自分の体験とリンクさせて語っている点もとても良いです。「私も火星に行った日本の宇宙飛行士として宇宙開発の歴史に名を残したいです」と自分の夢を恥ずかしがらず素直に書いているから、読み手も素直な気持ちになって読めます。(こちらを出だしの一文にしてもいいかもしれません。)
ただ、問題は短い字数に多くが詰め込まれすぎていることです。たった2000字に「目標と目的の違い」「夢を持つこと」「ハックをしたいこと」「社会貢献についての考え」「決断を下すこと」の5つのテーマがぎゅうぎゅうと詰め込まれています。きっと梨々花さんは多感で素直な方なのでしょう。読んで多くを感じ、それを素直に全て書こうとしたのでしょう。
きっと、なんとか全てを2000字収めようとしたのでしょうか。説明が不足している点が多くありました。例えばハックについての部分では説明なしに「ハックがしたい」と書かれていますが、『宇宙を目指して海を渡る』を読んでいない人にとっては、それがMITの学生が行っているイタズラを意味するのが分からないでしょう。悪意を持ったコンピューターハックと勘違いするかもしれません。同じく、「水曜日生まれの青年」も本を読んでいない人には何のことか分からないでしょう。読書感想文は、その本を読んだことがない人にも伝わるように書かなくてはいけません。
2000字で伝えられることには限界があります。全部を書きたい気持ちはよくわかります。でも、思い切って5つのテーマから1つに絞ることをおすすめします。そしてその1つについて必要十分な説明を加え、関連する自分の体験と、本を読んで感じた自分の心を、徹底的に深く掘り下げるのです。5つの中からどの1つをとっても素晴らしい感想文がかけると思います。残りの4つは、いつかこっそり僕に聞かせてください。
「作家本人が読書感想文にアドバイスします!」企画は夏休みいっぱい続けております。引き続き、多くの応募をお待ちしております!