チャールズ川の氷が溶け、ボストンの長い長い冬の終わりが見え出す三月中旬。今年もMIT大学院の合格を手にした新入生たちが、続々とオープンハウスでキャンパスを訪れる季節になった。うちのラボにもRAを求めて多くの新入生が訪れ、僕もその何人かを面接した。彼ら彼女らの頭の良さはMITに合格する時点で折り紙つきで、甲乙付け難い。しかし、誰を研究室に入れたいかとなると、優劣は比較的ハッキリと付く。今回面接した学生たちの中で僕が気に入った二名は、教授が気に入った二名とピッタリと一致した。気に入られる学生には明らかな傾向がある。この記事では、選ぶ立場から見たRA面接のコツを書きたいと思う。
日本の大学においては、学生は研究室に「配属」される。つまり、学科が一元的に生徒を先生に割り当てる。一方、アメリカの大学においては、学生は研究室に「雇用」される。各教授は個別に学生をRA (Research Assistant)として雇い、スポンサーから獲得した研究費を用いて学費と給料を払うのだ。RAを求める学生に対して、教授はミーティングという名の面接を行って、取るか取らないかを判断する。詳細は僕が昨年に掲載した記事「レンガを積むが如く」を参考にされたい。
まず断っておくが、僕はまだ一介の博士学生でしかなく、誰を取るかを最終的に判断する立場にない。また、航空宇宙工学科におけるAI/制御の研究という、非常に限定的な分野での経験でしかない。以下の情報は一般的なものではなく、あくまで僕個人の経験に基づいた参考意見と思って読んで欲しい。とはいえ、アメリカの大学院に五年半在籍し、研究室の中では新入生の面接を先生に任されるシニアなメンバーであることから、日本から来る新入生に対しある程度は役に立つアドバイスが出来ると信じている。以下の情報について追加や異議のある先生方や留学生の方、是非ご指摘願えれば幸いである。
僕の私見では、RA面接において強い印象を残すために効果的なのは次の三点だ。
1. 研究/プロジェクトにおける経験を具体的に語れること
2. 実用的なスキルを持っていること
3. 自信のある話し方をすること
1. 研究/プロジェクトにおける経験を具体的に語れること
僕はこれが最も重要な要素だと思う。「僕はロボティクスに興味があり、関係する授業を履修してAを取った。あなたの研究室で行っている研究はとてもクールなので、ぜひ加わりたい」などと、とても抽象的な言葉で語る学生がいる。マイナス要素は全く無いのだが、これでは他の大勢の頭の良い学生たちから頭一つ抜け出すことができない。
面接する側の印象に残るのは兎角、具体的な情報である。
もちろん、学部を卒業したばかりでは論文を何本も出せるほど研究結果が積みあがってることは稀だし、教授もそれを期待してはいない。しかし、それでも具体的に語ることはできる。例えば僕が東大での学部時代のプロジェクトの経験を具体的に語れば、こうなる:”I participated in a project that designed and manifactured a remote-sensing satellite. I programmed a software and desined a circuit board for the satellites’ communication subsystem. The 8kg hand-made satellite was successfully launched to the law Earth orbit and became operational in 2009.”
あるいは僕の学部時代の卒業研究を具体的に語ればこうなる:”In my bachelar thesis, I conducted a feasible study of a nano-class astrometry satellite that measures a stellar parallax with 1.8 milliarcsecond precision, in collaboration with the National Astronomical Observatory of Japan. I analyzed the attitude stability of the satellite by modeling its flexible body dynamic in a computer simulation. My analysis helped the team to make an important design decision: remove the satellite’s flexible solar paddles in order to avoid vibration. The satellite is scheduled to be launched in 2011.”
上記の説明を読めば、研究内容自体がなにやらスゴそうだと思えるかもしれない。しかし実際には、僕の学部時代の研究成果は、ごく平均的な学部生レベルのものでしかない。全ては話し方の問題だ。そのトリックは3で後述する。
繰り返す。重要なのは「具体的に」語ることだ。プロジェクトの場合は、プロジェクトの目的は何か、プロジェクト内での自分の役割は何だったか、プロジェクトへいかなる貢献をしたか、プロジェクトはどんな成果をあげたか、その経験を通じて何を学んだか、などを、できるだけ具体的な言葉で語る。研究の場合は、研究の目的は何か、未解決の問題は何だったか、それを解くためにどのようなアプローチを行ったか、自分のアイデアの何がイノベーティブだったか、どのような結果が得られたかを、できるだけ具体的な言葉で語る。立派な研究成果がなくても、論文が一本も無くても、恥じることは決してない。
日本の学部生の多くは、四年次に一年間、研究室に配属され研究を行い、卒業論文を書いた経験を持つ。これは非常に大きなアドバンテージだ。アメリカの学部では研究は必須ではないことが殆どで、卒業論文を書く者も少ないからだ。卒業研究を具体的に語ることは、この上なく大きなアピールとなる。
2. 実用的なスキルを持っていること
僕の教授のバックグラウンドは人工知能/コンピューターサイエンスのため、彼はプログラミングのスキルを非常に重視する。もちろん、それが絶対的な要件では決して無い。しかし自分が即戦力であることをアピールする強力な根拠となるのは間違いない。どんなスキルを持つ人を求めているかは教授によりけりだ。コンピュータプログラミング、CADソフト、有限要素法解析ソフト、電子回路設計、機械加工・・・。何か役に立ちそうなスキルを持っているなら、是非積極的にアピールするべきだ。「不言実行」が美徳の日本だと「俺はあれもできる、これもできる」と口先でアピールするのは憚れるが、アメリカでは何も話さなければ何も出来ないものと思われる。
3. 自信のある話し方をすること
日本では謙虚な人が好まれる。対してアメリカでは、自信に溢れた人が好まれる。
普段から謙虚な日本人が英語を話すと、英語の不得手と相まって、小さな声で悪びれたように下を向きながら、とても自信なさそうに喋る。相手が自分の英語を聞き取れず、眉間に皺を寄せて”Huh?”と聞き返そうものなら、もう日本人は萎縮し石化してしまう。それではいけない。
たとえ自分の英語に自信がなくとも、虚勢でもいいから自信満々に喋らなくてはいけない。胸を張り、相手の目をしっかり見て、大きな声でハッキリと喋る。余裕のあるスマイルを浮かべることが出来れば満点だ。
話の内容も、日本でのやり方とは変える必要がある。一般的に、ネガティブな内容は聞かれない限り一切言う必要がない。例えば、上で例示した人工衛星製作のプロジェクトは数十人規模の比較的大きなプロジェクトで、学部生だった僕はそのヒラ・メンバーの一人として、非常に小さな役割を果たしたに過ぎなかった。リーダーシップを取る立場にいたわけでもない。しかし、そんな謙遜はアメリカでは一切不必要であるどころか、有害ですらある。もちろん、決して嘘をついてはいけないし、他人の業績を自分のものとして語ることは許されない。ただ単に、自分が行ったポジティブなことを、謙遜せずに語ればいいのだ。
英語のポイントも二点挙げておく。一つ目は、自分が行った貢献については、Iを主語とした能動態を使うこと。”I was in charge of the design of the circuit boards”と言うよりも、シンプルに能動態で”I designed the circuit boards”というほうが、力強く、自信があるように聞こえる。
二つ目は動詞のチョイスだ。同じ能動態の文でも、とりわけ説得力を伴って聞こえる動詞がある。”Action verb”などと呼ばれるものたちだ。たとえば「製作する」を意味する動詞なら、makeよりもfabricate, manifactureなどがよりactiveな動詞だ。”I made the circuite board”と言うよりも、”I fabricated the circuite board”と言うべきだ。Action verbsの一覧は、MIT Career Officeのページにまとめられている。
以上の二点はレジュメ作成の際にも当てはまる。僕のレジュメがホームページに公開されているので、参考にされたい。RA面接の際には、このようなレジュメを持参するとよい。
これから渡米する日本の学生の幸運を心から祈っている。
3 thoughts on “アメリカ大学院 RAの面接の心得”
この3点、非常に勉強になります。私は製薬会社に入社して6年ですが、日本の企業でも今やこのような姿勢(具体的に自信たっぷりアピールする技術)が不可欠でしょう!
ロサンゼルス近郊でばらまいてるフリーペーパーのLaLaLaでono君の名前みたお!
米国赤十字の募金箱で財布の小銭をいれたり、現状を科学的な視点でレポートにまとめてばらまいたりして、こっちもできることをやってるお!
それにしても、RA面接で一つ重要なことがぬけてるお!
自分のどうしても行きたい研究室だけでなく、できるだけ多く回ること。どこか一箇所くらいは取ってくれます。RAの場合、枠の数を考慮して新入生を取ってるので・・・