Ben Tre から Phan Thiet (ファン・ティエット)行きのバスに乗った僕らは、本来はPhan Thietのさらに北にあるPhan Rang(ファン・ラン)を目指すつもりだった。ウイ君の「3時間でPhan Thietに着く」という言葉を半信半疑にバスに乗り込んだのだが、しっかり6時間ほどかかって到着した。(ベトナム人は嘘つきだ、と言っているわけではない。ただ、適当なだけである。)結局予定を変更し、Phan Rangはあきらめて、Phan Thietからすぐ近くにある、Mui Ne(ムイネー)という新興のリゾート地へ行くことにした。
Mui Neはほんの十数年前までは漁村しかなかった場所で、リゾートと言っても、バリ島などと比べるとどこか垢抜けない感があり、それが逆に魅力でもある。
Mui Neの名物のひとつは、thuyen thung (テュエン・テュン)と呼ばれる、竹を編んで作られたお椀形の小船だ。早朝にはリゾートホテルの目の前でも漁師たちがこのお椀舟に乗って網を引いている。もちろん彼らは観光客相手の商売も知っていて、乗せる客あらばお椀舟は有料観光船に早代わりし、英語は喋れなくとも砂に枝で数字を書いて値段交渉をする。こんな風に、客商売は覚えたけれども、商売がシステム化されておらず、なんとも場当たり的なのが、僕が「垢抜けないリゾート」と呼ぶ理由のひとつである。
(↑ お椀舟によじ登る子供たち)
僕らは日の出を見るつもりで朝6時にビーチに出たのだが、ちょうど漁師の家族が網の準備をしていて、舟に乗らないか、と誘われた。値段交渉も10,000ドン(約80円)であっさりとまとまった。漁師のお父さんが舟を押して海に浮かべると、3歳と5歳くらいの小さな子供二人がどこからともなく現われて、大はしゃぎで舟に飛び乗った。そんなわけで、明らかに定員オーバーの5人(いや、3.2人か?)を乗せたお椀の舟は、朝の海の静けさを少しも乱すことなく、ゆっくりと沖へ出て行った。本当に僕らは、海にぽっかりと浮いていた。水平線から浮かび上がってくる朝日がきれいだった。小さい方の子供がお椀舟の底で延々と喋り続けては突然泣き出し、その度にお父さんが舟をこぎながら、優しそうな口調で子供をあやすのだった。お父さんはどんなことを子供に言ったのだろうか。きっと優しさに溢れた言葉に違いない。このときほど、ベトナム語を理解できたら、と思ったことはなかった。
(↑ 左:小さな便乗者 右:艪をこぐお父さん)
30分ほど海を漕ぎまわり、浜に上がったあと、ひと悶着あった。浜で待っていたお母さんに代金の10,000ドンを払おうとしたところ、10,000ドンではなく100,000ドンだ、と言うのだ。故意かミスかは分からないが、まあ、ありがちなトラブルではある。漁師一家は誰も英語を喋れないし、僕らの知ってる「こんにちは」「ありがとう」というたった二つのベトナム語の語彙は、こういう時に全くもって役に立たない。さすがにおとなしく100,000ドンを払う気にはなれないのだが、お母さんも頑として引き下がらない。間を取って60,000ドンで決着させようとしたのだが、お母さんはなおも100,000ドンをよこせ、と言う。僕らが困り果てていたところに、さっき舟を漕いでいたお父さんがニコニコと笑いながらやってきた。ああ、敵勢が増えた、と思いきや、お父さんはお母さんの背中をポンポンと叩き、もういいじゃないか、とでも言うように彼女をなだめ、僕らに笑顔で握手をし、その場を収めてくれたのだ。僕らは”Cam ong”(ありがとう)と何度も言い、立ち去った。こういうときこそ、たった二つの語彙が本当に役に立つ。
(↑ 二隻のお椀舟で網を引く若者たちが、僕らの舟を追い越していった。)
Mui Ne に行く人は、ぜひともバイクを借りて、砂丘、漁村と、Fairy Streamを回ってほしい。バイクは、路上で暇そうにしているバイク・タクシーのおじさんと交渉すれば、簡単に借りられる。免許のチェックなどももちろんない。(そもそも免許という制度があるのかな…。)1時間2ドルで4時間借りたが、頑張ればもう少し値切れたと思う。僕らはホテル街から近いred sand dune止まりだったが、その奥にある white sand duneまで行きたい人は、6時間は見たほうがよいだろう。
(↑借りたバイクはヤマハの新品。ハンドルを握るのは連れ。女が運転で男が後ろ、という構図は非常に珍しいらしく(日本でも珍しいか 笑)、バイクを借りたおじさんに笑われた。)
砂丘では、青いプラスチック板に取っ手を付けただけのソリを持ち、”do you wanna slide?”と、砂丘ソリ滑りを売り込む子供達の一団に取り囲まれる。明らかな供給過多で、すれ違う観光客は必ず、10人以上の護送船団を従えている。静かに砂丘を見物させてくれよ、と最後まで拒否し続けると、女の子たちは悲しい顔で、男の子たちは「ファック・ユー!」と叫びながら、次の観光客の方へ去っていった。
砂丘の入り口でバイクを停めさせてもらった軽食屋の少年が、なかなか面白い奴だった。とにかくひたすら僕らに対して喋りまくる。左手で筒を作り、そこに右手の人差し指を出し入れして、セックス、セックスと叫び続ける。たまにバイクが通りすぎると、慌てて道に出て大声で客引きをするのだが、こんな調子では客が捕まる筈もない。お父さんもお母さんも、携帯電話をいじりながらハンモックで寝ている。つまり、一家全員まったく商売への情熱がない。客が来ないならば客単価を上げるしかないのだが、そこだけはしっかりしている。会計をすると、使ったおしぼりにジュースよりも高い値段がついていたのだ。大した金額でもないので、少年のセックス講話の聴講料と思って、文句を言わずに払った。帰り際、僕らがセックス少年を挟んで写真を撮ろうとすると、「真ん中で写されると、クッ(手で首を切るジェスチャー)」と言って逃げた。そう、面白いことに、ベトナムにも「三人の真ん中で写真を撮られると縁起が悪い」というジンクスがあるようなのだ。
(↑結局、僕が「クッ」のポジションに納まった。左がセックス少年。右下に、ハンモックで寝ているお父さんが写っている。)
漁村はホテル街から僅か10kmの場所にあるのに、未だリゾートに毒されておらず、漁村としての活気に溢れていた。湾には何千隻ものカラフルな漁船が繋がれていて、それはGoogle Mapの航空写真からも見ることができる。通りや浜には、所狭しと煮干のような小魚が並べられていて、浜にある魚醤工場(と思われる工場)では、大勢の男女が汗だくになりながら釜に向かっていた。一方で路上では、昼間から賭け将棋に興じる男達が群れていた。そう、ベトナムには何故か、せっせこ働く人がたくさんいる一方、そのすぐ傍らで暇そうにしている人も大勢いる。みんな金持ちそうでは決してないのだが、かといって困窮しているようにも全く見えない。これは社会主義と関係があるのか、ないのか。
Fairy Streamは、アメリカにあるザイオン国立公園のミニ版、といった感じで、浅く緩やかな川の右岸に真っ赤な砂山、左岸に熱帯の木々が茂る。そんな奇景を眺めながら、裸足になって川の中をじゃぶじゃぶと1kmほど歩くと、美しい小さな滝に辿り着く。こんなに素晴らしい景色であるにも関わらず、「歩き方」にも「ロンプラ」にも数行紹介されているだけなので、訪れる観光客は少なく、それをいいことに全裸になって滝を浴びた。さすがは「垢抜けないリゾート」なだけあって、途中には農家の牛が放牧されており、時々観光客を通せんぼする。彼らは全く何事にも無関心な様子で、観光客がすぐそばを通ろうとも、悠然と草を食み、小便を垂らす。
(次回へつづく)
2 thoughts on “Vietnam (2) Mui Ne: 垢抜けないリゾート”
ベトナム楽しそうですね。今度行きます。
僕は、イスラエルでは授業ばっかりで遠出はできなかったです。
おー、戻ってきたんだ!イスラエルのお土産話、きかせてね!