アメリカに二年住んで感じたのは、日本ほど、日常会話で政治の話題を避ける国はないのではないか、ということです。MITの人たちは、特にアメリカやヨーロッパの人は、若い人も、理系の人も(そもそも理系文系という概念は欧米にはない)、選挙の前となれば、気軽に政治の話をします。対して、日本では、飲み会で政治の話でも持ち出せば、ケムたがられるのがオチでしょうか。日本人が政治について考える時間が、みのもんたの無思慮で安直なコメントを、朝のニュースで聞く時だけならば、それほど恐ろしいことはありません。そんなわけで、ガチンコに選挙の話です。
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結論から書くと、僕は民主党を支持しません。
理由を大雑把に言えば、「マニフェスト」に並べられた政策は、「国家百年の計」ではなく、「民主党が政権をとるための計」としか思えないからです。
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その最も象徴的な主張が、
> 2. 安心して子育てできる社会。
> 1人月額2万6000円の「子ども手当」を支給します。
この部分です。
少子化は深刻な問題です。国力は人口に比例するからです。では、この政策が、少子化対策として有効か。まずもって、日本の女性が子供を持たなくなった理由は、経済的に困窮しているからではないでしょう。
「26,000円もらえるんだって!だったら私、もう一人子供を産もうかな!」
そう安直に思う女性は、どれだけいるでしょうか。
出生率の低下の根本の原因は、働く女性が増える中、日本の子育てが未だに家庭内の女性に依存しているからです。ならば、月26,000円を一律にばら撒くのではなく、その財源を、託児所の整備と補助などに重点的に配分するべきです。補助金のばら撒きは、決して出生率の向上に寄与しません。子供が既にいる家庭の可処分所得が26,000円増えるだけでしょう。子供の小遣いは増えるかもしれませんが、子供の数は増えません。
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さらに怪しいのが、この「26,000円」という額が、いったい何を根拠に計算されたのか、全く不明である点です。唯一の根拠となりそうなのが、マニフェスト巻末にある財源の説明。これを読む限り、「無駄を省くことで得られる財源、15.3兆円」(これがまた非常に怪しい)から、年金対策などに必要な金額を引き算したのち、現在の15歳以下の子供の頭数で割り算したら26,000円になった、としか理解できません。なぜなら、たったの6項目からなる「主要政策に必要な経費」を足すとキレイに15.3兆円ぴったりになり、うち「子ども基金」分の年4.8兆円を、月額26,000円×12で割ると1500万人、これは現在の15歳以下の子どもに人数にぴったり一致します。つまり、26,000円は、何か妥当な経済モデルを仮定し、出生率をどれだけ上げるにはどの年齢層にいくらの追加所得があればよい、と計算されたのではなく、今現在の税収と人口分布のみを仮定し、単純に引き算と割り算でばら撒き金額を最大化した結果でしょう。
「創業は易く守成は難し」(事業を始めるのは簡単だが、維持してゆくのは難しい)とは、中国史上最高の名君とも言われる、唐の第二代皇帝、太宗の言葉です。
もし仮に、民主党の計算がピッタリ合えば、子供ひとりあたり26,000円の補助を「始める」ことは、おそらく可能でしょう。しかし、税収や人口分布は常に変動します。例えば、将来景気が後退したり、労働者人口が減って、税収が減ったらどうするのか。あるいは、めでたく「子ども基金」の効果が上がって少子化が改善され、子どもの数が増えたら、または、再びデフレが起こって、貨幣の額面価値が上がったらどうするのか。財源不足は眼に見えています。しかし、一度26,000円の補助が世の中に定着してしまっていたら、それを減額するとなると、消費税増税と同様に国民の猛反発に遭うこと必定です。となれば、国債発行でしょうか。防衛費にも匹敵する5兆円もの「子ども手当」は、国債と同じく、手のつけようがない、厄介な荷物になってしまいます。26,000円のばら撒き補助を始めるのは容易かもしれません。しかし、それは、果たして百年先まで維持できる金額として計算されたものか。国家百年の計によるものなのか。もしそうでなければ、そのツケは、26,000円を貰ってハッピーになっていた子供が大人になる頃、彼らの肩に重くのしかかるでしょう。
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では、なぜ「ばら撒き」システムがいけないのか。それは、動かせるパラメーターの数(自由度)が極端に少なく、世の中の動きに臨機応変に対応できなくなるからです。例えば、一律26,000円を支給する、といったシステムがあった場合、その後の行政が動かすことのできるパラメーターは、「26,000円」という金額の、たったひとつだけです。一方、いつ、誰に、いくら、どのような方法で資金を投下するかを臨機応変に変えれらるシステムならば、動かせるパラメーターの数(自由度)が格段に多くなり、世の変化に合わせて効率の良い資金配分ができます。「理系」の言葉を使えば、与えられたデータに対してカーブフィッティングをする場合、より高次の(=パラメーターが多い)多項式で近似する方が最小二乗誤差を小さくできる、それと同じことです。
あるいは、競馬で例えると分かりやすいでしょうか。ばら撒きシステムとは、全レースとも3番単賞一点買いと予め決めておき、レースごとに掛け金のみを動かすようなものです。それよりも、馬の調子、馬場の状態、最近の成績などから総合的に判断し、臨機応変に、賭けるレースを取捨選択し、賭ける馬と、賭ける方式を選ぶほうが、明らかに多くの配当を望めますよね。
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「子ども基金」の他にも、農業の効率化と逆行する零細農家への補助金のばら撒き、2050年までに50%の温室効果ガス削減という、これまた計算の根拠がどこにも書いていない数値目標、そして何より、「無駄を省く」の五文字で片付けてしまった15.3兆円もの財源確保。民主党の提示する政策は、国家百年の計を無視した、目先の人気取りのための皮算用としか思えてならないのです
では、一方の自民党は国家百年の計を考えているか、と問われれば、やはり疑わしい。加えて、安部さんのタカ派路線と、政局運営の下手さは非常に気になる。もちろん、失言、事務所費云々も気になるところでしょうが、投票する側も「国家百年の計」を考え、目先のことだけではなく、もっと大きな政策に眼を向けて投票するべきだと思います。今回は消去法で自民党か、というところです。
付け加えとしてもう一点、民主党で気になるのは、人材不足です。結党以来9年、管、鳩山、岡田、小沢、この4人以外に、顔となる有力政治家を民主党は輩出したでしょうか。しかも4人とも全員、自民党出身です。前原さんという新顔が出てきましたが、一瞬で自滅しました。まだまだ党として未熟、そんな気がします。
一刻も早く、政権交代可能で、健全な野党が出てくることを願いつつ…。
民主党マニフェスト:http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2007/pdf/manifesto_2007.pdf
参考記事:http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/71638