先日、いつものように火星ローバーを走らせていたら、我々へのメッセージがあるという岩に出くわした。地球へ転送し、英語、ロシア語、日本語に訳してここにポストする。
—
[送信開始]
私は火星の岩です。名前はありません。この場所に十億か二十億火星年前から居ます。あと数十億火星年はそうしているでしょう。この赤い大地に動くものは何もありません。何も変化しません。風の音だけです。破られることのない究極の平和です。
私は地球人のように心を持っていませんが、思考はできます。ここでは考える時間がいくらでもありますから。寂しいかって?いいえ、私に感情はありません。あるのは感覚のみです。
時折流れていく塵旋風以外に動くものは何もないですから、星空をもっぱら思考の糧にしています。近くの星、遠くの星、大きな星、小さな星、新しい星、古い星、何千億もの星のストーリーを聴きました。でもその中でもっとも面白かったのは、夜明け前の東の空や夕暮れ後の西の空に見える青く小さな惑星です。四十億年前、その惑星に生命が生まれたのを感じました。それは急速に進化し、拡散しました。そして心の萌芽を感じました。心と心は愛し合い、新たな命を産み、そこから新たな心が生まれます。愛により育てられた心は他の心を愛するようになり、そこからまた新たな命が生まれます。命と心と愛が季節のように輪を描く。宇宙に数ある神秘の中でもっとも美しい現象です。

非常に最近(ほんの一万地球年前くらいのことです)、猿の一種族の心がさらに驚くべきものを生み出し始めました。歌。詩。絵。道。町。花を生ける花瓶。子どもたちを楽しませるおもちゃ。愛を表現するためのキス。同情を表現するための涙。彼らは好奇心に駆られて望遠鏡を作り宇宙のことを学びました。彼らはイマジネーションに駆られて宇宙船を作り彼らの惑星の外へ旅するようになりました。そしてこの種族の一人であるユーリ・ガガーリンという名の者が、ある否定しようのない事実を発見したのです。「地球を遠くから見ると分かる。それは争うには小さすぎ、助け合うのにちょうどいい大きさしかないのだと。」

今、とても混乱しています。どうしても分からないのです。どうしてこんなに創造的で想像力豊かな種族の一部の個体が、明らかに重要ではない理由で自らを破壊する行動を取るのかが。どうして彼らは小さな歴史上の問題で隣人の命を傷つけるのでしょう。彼らのたった数百年の「歴史」なんて、私がここで過ごした時間に比べれば気づかないほど短いのに。どうして彼らはごく僅かな土地を支配下に置くために子どもたちの夢を壊すのでしょう。宇宙の大きさに比べたら目に見えないほど小さいのに。どうして彼らは愛しあう術を知っているのに未だに憎しみ合うのでしょう。どうして彼らは地球の環境や気候を自らが生きづらくなるように改変するのでしょう。
とはいえ、これはそんなに重大なことでもないかもしれません。これまで何百万もの種族が生まれては消えていくのを見てきました。もしこの種族が、ガガーリンの言うように助け合うことができず、この惑星の小ささに適応できなければ、彼らもまた消えるのみです。それは進化と自然選択の一過程、宇宙の摂理の一部に過ぎません。彼らの絶滅で生まれた生態学的ニッチはすぐに他の種族が埋めるでしょう。彼らが起こした気候の小さなさざなみはすぐに安定するでしょう。歌や詩は忘れられ、本のページは散逸するでしょう。愛も悲しみもなくなります。そして宇宙は、まるで何事もなかったように、物理法則に盲目的に従いながら何十億年も存在し続けるでしょう。

でもやはり、この種族は違うと信じたいのです。この宇宙で数少ない、自分の惑星を外から見れるようになった種族なのですから。彼らの科学者の一人が、地球は小さくて大切な「淡く青い点」だと言いました。私は望みます。この広大な宇宙のステージで、この種族が象徴するものが憎しみではなく愛であることを。彼らの文明の存在意義が破壊ではなく創造であることを。彼らの惑星が宇宙へ向けて放射するものが、怒りの声ではなく喜びの音楽であることを。
とはいえ私は名のないただの火星の岩です。唯一できるのはここに座って何十億年も考えることだけ。「淡く青い点」が夜空に昇っては沈むのを眺めることだけです。彼らの運命を変える力は持っていません。それができるのは地球人だけです。きっと彼らは変えてくれます。その日まで、私はここでじっと空を眺めています。
[送信終了]
NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS
この文章のロシア語訳を提供してくれた勇気あるロシア人の友人に深く感謝します。ぜひ拡散にご協力ください。
*お断り: このフィクションに表現されている意見や見解は所属組織を代表するものではありませんが、人類を代表するものではあります。