Image: NASA/JPL-Caltech

火星が燃えている

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きのう、火星に液体の水を湛える地下の湖があるかもしれないという大ニュースがありました!7月31日には地球に15年ぶりの大接近をします。この原稿、宇宙メルマガ The Voyageの8月号のために書いたものなのですが、タイムリーなネタなので前半部分だけ先に掲載しようと思います。(掲載は8月中旬の予定なので、7月31日が過去のイベントとして書かれています笑)


火星が夜空に燃えている。7月31日の大接近、ご覧になられただろうか?まだ遅くない。向こう数ヶ月は徐々に光度を落としながらも赤く燃え続ける。それを逃すと、次は2年2ヶ月後になる。

なぜ2年2ヶ月に一度なのか。校庭のトラックを想像して欲しい。内側のコースを走る青いゼッケンの地球は足が速く1年に一周する。外側のコースを走る赤いゼッケンの火星は足が遅く一周するのに1年11ヶ月弱かかる。そんな問題が小学校の算数であったかもしれないが、すると2年2ヶ月ごとに火星は周回遅れになり地球に抜かれる。それがつまり接近である。

しかし、校庭のトラックと違い実際の惑星の軌道は完全に並行ではない。地球の軌道はほぼ円だが、火星の軌道は楕円だ。だから、どこで青が赤を追い抜くかによって接近時の距離が大きく変わる。今年は15年ぶりの近さだそうだ。

子供たちが寝静まる頃になると、火星は東の空に姿を現わす。その赤さは他の星に比べて明らかに異質だ。最接近に向けてどんどん明るさを増していく様は、まるで南天の木星と夜空の主役の座を争っているかのようである。

前回の接近は2016年5月。この時、僕は火星を見た記憶はない。娘のミーちゃんが生まれて間もない頃で、幸せと忙しさでそれどころではなかった。赤い星は宇宙のすこし向こうから、隣の青い星にいまひとつ新しい命が生まれたことを、密かに祝っていた。

それから2年2ヶ月。火星がまた戻ってきたのは、その命に知性が宿ったことを祝福するためだろうか。

この頃はよく、ミーちゃんを寝る前に連れ出してアパートの屋上に見に行く。抱っこしながら「あれが火星だよ」と指差すと、彼女も真似て可愛らしい指で同じ方向を差し、

「パパが、おしごとしてる、かせいだよ」

と恐らく妻が吹き込んだ知識を逆に教えてくれる。宇宙そのもののように輝く黒い瞳をあの星へ、この星へと向け、吸い付くように見る。夜空を駆ける点滅する光を見つけると「ひこうき!」と興奮して叫ぶ。彼女の心は今、世界を理解し始めている。見られたいと欲する星々が、知りたいと欲する目と出会い、喜びにまたたいている。

次に火星がやってくるのは2020年10月。きっとミーちゃんは僕よりはるかに英語が上手になっているだろう。「パパのおしごと」であるマーズ2020ローバーが火星に向けて打ち上がる年でもある。一緒に打ち上げを見に行こうと思っている。どんな「おしごと」なのか、きっともう理解できるようになっているだろう。

ひとりひとりの人間は宇宙と比べればミジンコのように小さな存在だけれども、人生や生き死にを星々の運行と結びつけるのはそこまで奇異な考えではあるまい。事実、僕たちは生まれてからの時間を何歳と数えるが、「年」とは太陽系第三惑星が太陽のまわりを巡った数だ。人は地球の1週目で歌を覚え、2週目で言葉を覚え、十何週かすると恋に芽生え、その後の何十週かでさまざまの喜怒哀楽や幸不幸を経験し、八十週目あたりで思い出とともに空に還る。それが僕たちが「人生」と呼ぶものである。

では、他の星で測ると人生はどのように見えるだろう?


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