Image credit: Interstellar Technologies Inc.

小型ロケットはなぜ待望されるのか?

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「ホリエモンロケット」こと、インターステラテクノロジズ社のMOMOロケットの打ち上げが行われた。日本の民間企業のロケットとしては初めて宇宙との境界と定義される高度100 kmを目指したが、飛行中のトラブルで緊急停止され、部分的失敗に終わった。

バスケの神、マイケル・ジョーダンはこんなことを言った。
“I’ve failed over and over and over again in my life and that is why I succeed.”
(私は人生で何度も何度も何度も失敗した。それが私が成功した理由だ。)
現在の宇宙開発は膨大な数の失敗の上に成り立っている。今回の失敗は成功への過程に過ぎない。ぜひ、成功するまで再チャレンジしてほしい。

さて、MOMOは全長9.9メートル、重量990kg。H-IIAロケットは300トンあるから、その約300分の1の小さなロケットである。

よく、小型ロケットは大型へステップアップするための途中通過点にすぎないと思われることがあるが、それは間違いだ。小型ロケットはそれ自体に大きな価値がある。小型人工衛星を、低コストで、好きな時に、好きな軌道へ打ち上げることができるからだ。

では、小型ロケットがないと何が困るのか。説明しよう。

超小型人工衛星で一番乗りした日本

超小型人工衛星の世界一番乗りは日本であったことを、皆さんご存知だろうか?2003年、東大が開発したXI-IV(サイ・フォー)と東工大のCUTE-Iという2機の学生手作り衛星が、地球低軌道に乗った。両方とも重さたった1kg、大きさ10cmほどの、キューブサットと呼ばれる超小型人工衛星だった。この2機は世界で初めて成功したキューブサットとなった。XI-IVは搭載された小さなカメラで美しい地球の画像を送ってきた。僕は当時大学3年生で、衛星を開発した中須賀件に入れてもらい、徹夜明けに宇宙から届く電波に耳を澄ませたものである。

東大が打ち上げた世界初のキューブサット、XI-IV。Credit: 東京大学中須賀研究室

では、この2機はどうやって宇宙へ行ったのか。ロケットは高額すぎて大学の研究室が買えるようなものではとてもない。

そこで「ヒッチハイク」した。他の大型衛星が打ち上げられる時に、ロケットの隙間に「便乗」させてもらったのである。「ピギーバック」と呼ばれる方法である。

コストを考えると、超小型人工衛星を打ち上げる手段は現在でも3つしかない。①ピギーバック、②国際宇宙ステーションからの放出、③多数同時打ち上げである。100億円もかかる大型ロケットを単独で買っては、低コストという小型衛星のメリットがなくなってしまうためだ。

このうち最も頻繁に用いられる方法は①である。しかし様々なデメリットがある。例を挙げよう。

不遇の小型衛星、Nano-JASMINE

XI-IVに成功した東大は、国立天文台と組み、さらに野心的な人工衛星の開発に乗り出した。Nano-JASIMINEと呼ばれる重さたった35 kgの小型衛星で、銀河系の3次元マップを作ることが目的だった。当時、この分野で先がけていたのは、1989年に欧州宇宙機関(ESA)によって打ち上げられたヒッパルコスという大型衛星だった。たった35kgの人工衛星でヒッパルコスを超える精度の観測をしようという、野心的な計画だった。

Nano-JASMINEの想像図。Credit: 東京大学中須賀研究室

計画は2003年から動き出した。僕もそのフィージビリティー・スタディーに携わった。衛星の開発も間もなくスタートした。問題は、いかにして打ち上げるかだった。ピギーバックの機会は限られているためだ。もちろん、自前で大型ロケットを買うお金はなかった。

そこへ、願ってもない話が来た。ブラジル宇宙機関がTsyklon-4というウクライナのロケットを打ち上げることになり、その試験飛行でNano-JASMINEを無料で打ち上げてくれることになったのだ。打ち上げは2011年の予定だった。渡りに船と思われた。だが・・・

様々な理由で打ち上げは延期に延期を重ね、ついに2015年、政治的な事情もあり、ロケットの打ち上げ自体が消えてしまった。便乗させてもらっている身なので先方の事情に対して何も言うことはできない。すでに完成したNano-JASMINEは、宇宙にいつ行けるとも知らず、東大の棚の中で眠ることになった。

そうこうしている間に、2013年にESAはヒッパルコスの後継となるガイアという衛星を打ち上げてしまった。ガイアは大型衛星で、Nano-JASMINEをさらに上回る精度で銀河の3次元マップを作ることができる。

もしあの時に、大学の研究室でも買えるような低コストの小型ロケットがあれば。もしNano-JASMINEがガイアより先に宇宙に行っていれば。もちろん科学は手柄の取り合いではないが、ガイアの発見の多くはNano-JASMINEが成したかもしれないと思うと、昔の当事者としては残念に思わざるをえない。

宇宙に小型の時代が来る

この数十年でコンピューターがどれだけ小さく軽くなったか。人工衛星も同じだ。Nano-JASMINEのように、一世代前の大型人工衛星がやっていたことの多くは小型人工衛星で実現可能だ。しかし、小型人工衛星に適した打ち上げ手段がなくてはその真価を発揮できない。ピギーバックに頼るままでは、他人の事情に左右され、打ち上げ時期も選べず、軌道も選べない。

小型ロケットが実用化されれば小型人工衛星の時代が来る。大学の研究室や中小企業、もしかしたら個人も、自分の人工衛星を持つことができる。

これが新しいビジネスチャンスを生むのは言うまでもないだろう。たとえば、東大や東工大で学生の頃に人工衛星を作っていたメンバーが中心となり、アクセルスペースという小型人工衛星ベンチャーが生まれている。2015年には19億円の資金調達を行い、50機の超小型人工衛星を打ち上げ、地球のあらゆる場所の画像をタイムリーに提供するサービスを行う計画だ。

自動車においても高級車市場より大衆車市場の方がはるかに大きい。SpaceXやブルーオリジンといった先行者は大型化に突き進んでいる。だが将来的には、小型ロケット・小型人工衛星の方が大きな市場になる可能性も思う。

ビジネスだけではなく、科学や技術実証においても大きなインパクトがあることを強調したい。

そもそも、なぜ国立天文台は銀河の3次元マップを作るために、JAXAに大型衛星を作ってもらうのではなく、東大と組んで小型人工衛星でやることを選んだのか?

大型衛星は打ち上げ機会が極端に限られているからだ。人工衛星を打ち上げたい科学者は山のようにいるが、コストがかかるため、実際にプロジェクトとなるのはほんの一握りだ。しかも、実現まで何十年も待たなくてはならない。

Nano-JASMINEのように、小型衛星でもできる科学観測は多くある。低予算・短期間で打ち上げられれば科学は大きく前進する。技術実証も然りだ。

バイオや化学の研究室が実験装置を買って研究するような感覚で、宇宙科学や宇宙工学をやっている研究室が人工衛星を買って実験できるようになったら。博士学生が3年のうちにカスタム小型衛星を打ち上げ、実験し、 それを博士論文にできるようになったら。

小型人工衛星はすでにある。ビジネスにもなっている。欠けているのはその打ち上げ手段なのだ。それが、小型ロケットが待望される理由である。

今回ロケットを打ち上げた日本のインターステラテクノロジズだけではなく、ベクター・スペース、ロケット・ラボなど、世界の多くの会社がこの有望な市場を狙って小型ロケット開発を行っている。複数の会社が競争すればコストはさらに下がる。未来は明るい。Nano-JASMINEのような不遇を小型人工衛星が味わう時代は、間もなく過去のものになるだろう。

Nano-JASMINE、ついに宇宙へ!!!

余談であるが、不遇のNano-JASMINEは2018年についに宇宙へ行くことになりそうだ。助け舟を出してくれたのは、ライバルのESAである。ESAの衛星にピギーバックで宇宙に行く予定だ。

Nano-JASMINEより観測精度が良いガイアはすでに打ち上がった。だが、ガイアはセンサーの感度が良すぎるため、逆に明るい星は観測できないという穴があった。その穴を、Nano-JASMINEは埋めることができる。ガイアの観測と組み合わせることで、より完全な銀河の3次元マップを作ることができるのである。

先も行ったように、科学は手柄の取り合いではない。人類が一丸となって挑むものである。Nano-JASMINEとガイアの協力は、まさにそのことを僕に思い出させてくれた。

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