2013年慶應大学物理情報工学科卒業式 祝辞

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慶應を辞めて、もう1年になる。その最後の日が卒業式で、僕も「卒業」するからと、学科の卒業式で祝辞を述べさせてもらう栄誉に預かった。今年も卒業式シーズンになった。この機会に、その祝辞を公開しようと思う。改めて読み返して、これは学生に向けて話したというより、自分に言い聞かせていたのだとも思う。

今年卒業した学生のみなさん、本当におめでとう!

みなさん、本当におめでとう。修論発表のときはみんな青ざめた顔をしていたけれども、今日は本当にいい顔をしています。素晴らしい論文を書いて卒業した人もいるし、一方で、中には先生方にお世話になりまくって、何とか卒業する野郎もいるでしょう。何であれ、慶應の修士を卒業するということは本当に素晴らしいことです。皆さんが自分で思っている以上に素晴らしいことです。どれだけ素晴らしいことか。日本で修士号を取得する人は年間約6万人です。君らの世代の人口のたった4%です。しかも、単なる修士号ではなく、誰もが知る名門、慶應義塾の修士号です。だから、皆さんの学業における達成は、日本の上位1%、ともすれば上位0.1%くらいかもしれない。これは本当に素晴らしいことです。心から祝福します。おめでとう!

そんな素晴らしい栄誉とともに慶應を巣立ち、社会人となり、あるいは博士を目指して進学する皆さんに、今日、ひとつのことを伝えたいと思います。信じることです。努力や挑戦を続ければ、いつか未来に夢や目標が実現することを信じることです。そのために、少しだけ、僕の身の上話を聞いてください。

今日は、皆さんにとって慶應最後の日であるわけですが、実は僕にとっても慶應最後の日です。既にご存知の方も多いと思いますが、僕は昨年4月に日本に帰ってきて慶應に着任したばかりなのに、一年限りで辞め、再びアメリカに渡り、NASA JPL、ジェット推進研究所に転職します。そして子供のころからの夢だった宇宙開発の仕事をします。

よく、たった一年でまたアメリカに戻るならば、どうしてMITを卒業した後に直接JPLへ行かなかったのか、と聞かれます。いまさら隠しても仕方がないので言いましょう。僕は学生時代に一度JPLの面接を受け、落ちました。それだけの理由です。

ただ、僕は幸運でした。ある日本の名門大学から、みなさんが良く知る大学から、助教のオファーをもらえたのです。元々、大学での教職にも非常に興味があったし、ただの大学ではなく慶應大学だったから、願ってもないオファーでした。そういういきさつで僕はここへ来ました。

慶應での仕事は本当に楽しかったです。予想以上に楽しかったし、本当に充実していた。僕は何も、後ろに座っている先生方に気を使ってこう言っているわけではありません。これが僕の本心であることは、足立先生や、ここにいる足立研の学生さんたちがよく知っています。何と言っても、学生を育てるという仕事が本当にやりがいがありました。不満なことも、何一つありませんでした。

ただ本音を言うと、JPLに未練がなかったかといわれれば、そうでもありませんでした。悔しくなかったかと聞かれれば、めちゃくちゃ悔しかった。

僕にはもうひとつ、幸運がありました。慶應に着任する前に、2ヶ月だけ、JPLでインターンをする機会を与えられました。僕はその2ヶ月間でめちゃくちゃ頑張って、僕を採用しなかったことを心の底から後悔させてやろうと思いました。そしてその通りにしました。昼夜も土日もなく研究をしました。そして、3週間で国際学会で発表できる結果を出し、学会論文を投稿しました。さらに帰る前にもう一つ結果を出し、そちらは帰国後に論文にしました。

慶應に来た後も頑張りました。宇宙開発は日本でだって出来ます。たとえば、僕は国内学会に参加したとき、ちょうど招待講演で来ていたJAXAの先生を、休憩時間に捕まえて話して、自分の研究をアピールして、懇意になりました。そして、JAXA2020年頃に打ち上げ予定のMELOSという火星探査機に積まれる、火星飛行機のチームに加わり、共同研究をすることになりました。

そうやって頑張っているうちに、思いがけない話が来ました。JPLが、僕に転職のオファーをくれたのです。去年の10月頃でした。

僕は迷いました。先にも言ったとおり、僕は慶應の仕事が本当に好きだった。こちらでの研究も軌道に乗ってきた頃だったので、何を今更、という感もありました。

いろんな人から、止めとけといわれました。慶應では僕は自分の部屋を持って、学生を従える身分です。一方、JPLでの身分は、大部屋に机を並べて仕事をする、いわば平社員、平研究員です。部下も、学生も、ひとりもいません。慶應にいれば最低三年は安泰だし、専任講師に上がれさえすれば、その後は終身雇用です。JPLは期限付きのポジションではありませんが、アメリカなので、景気が悪くなれば簡単に首を切られるリスクがあります。そしてなにより、日本で働いている妻を残して行かざるを得ませんでした。

でも、迷った末に、やはり行くことに決めました。それが子供の頃からの夢だったからです。後悔したくなかったからです。そして、自分がこの道で成功することを信じているからです。

みなさんの多くは、あと三日で新社会人です。もしあなたが、自分の夢を叶えるためのベストな仕事に、希望通りに就けたならば、それは素晴らしいことです。一直線に頑張ってください。

一方で、この中には、今度入る会社が第一希望ではなかった人もいるでしょう。本当にやりたいことは他にあったのに、妥協をし安全を取って大手に就職した人もいるでしょう。様々な事情があって職を得られなかった人もいるかもしれません。

僕はそんな人にこそ言いたい。信じることです。信じて努力を続けることです。努力を続ければ、いつか自分の夢や目標が達成されること、なりたい自分になれること、充実した人生を送れることを固く信じることです。それがどう達成できるか今は見えなくても、スティーブ・ジョブスが言ったように、将来後ろを振り返って点と点が線で結ばれることを固く信じて、努力を継続することです。どんなに辛い時でも成功を信じてください。失敗のどん底にある時こそ信じてください。すべてを失っても、信念だけは失わず、努力を続けてください。

努力を続けていれば、きっといつかチャンスが巡って来ます。転職のチャンス、起業のチャンス、あるいは社内で大きな仕事を任せられるチャンス。もちろん、挑戦にはリスクも伴うでしょう。でも、必ず上手くいくと固く信じて、清水の舞台から飛び降りてください。

もちろん、信じて努力を続け、信じてチャンスに飛びつけば、必ず成功するとは、僕は保障しません。でも一つだけ保障できます。信じなければ、成功できないことです。

ロベルト・バッジョという有名なイタリアのサッカー選手が居たのをご存知でしょうか。彼は1994年のワールドカップの決勝戦で、ペナルティー・キック、PKを失敗し、それが直接的な原因となってイタリアは敗れました。批判にさらされた彼はこう言いました。『PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ』。

繰り返します。成功を信じて努力を続けてください。成功を信じて挑戦を続けてください。人間が老人になるのは、夢よりも安定を選ぶようになったとき、成功を信じるよりも失敗を恐れるようになったときです。僕は死ぬまで若者でいるつもりです。みなさんも死ぬまで若者でいてください。

僕はまもなくアメリカに旅立つわけですが、まだ夢の入り口に立ったばかりです。僕の人生が成功だったといえるかどうか、宇宙開発の歴史に名を残せるかどうかは、これからの頑張り次第です。

実は僕は、将来成功して有名になったあとで、死ぬ前に言い残す言葉を一つ、既に考えています。本当は成功するまで隠しておこうと思ったのですが、今日、こんなに素晴らしい機会をもらったので、言ってしまおうと思います。

「成功はそれを信じる者に訪れる。失敗はそれを恐れる者にやってくる。」

ではどうすれば成功を信じられるか。こう思えば簡単です。先にも言った通り、皆さんは慶應の修士号を取ったということは、たとえこの中ではどんなに出来が悪い人でも、日本のトップ1%であるということです。みなさんが成功できなくて、日本の誰が成功できるでしょうか。大丈夫です。未来は明るい。道は皆さんに開けています。その道を自信をもって前へ歩けばいいのです。でも、長いキャリアの中では、失敗し、不安に駆られ、自信を失い、成功を信じられなくなる時があるでしょう。そんなときは、今日もらった卒業証書を見返し、それは日本のトップ1%である証であることを思い出してください。

「成功はそれを信じる者に訪れる。失敗はそれを恐れる者にやってくる。」

僕は海の向こうで、自分の成功を信じて努力と挑戦を続けます。皆さんもそれぞれが進む道において、成功を固く信じて、努力と挑戦を続けてください。

最後に、あらためて、おめでとう!

2013年3月29日 小野雅裕

One thought on “2013年慶應大学物理情報工学科卒業式 祝辞

  1. >僕はそんな人にこそ言いたい。信じることです。信じて努力を続けることです。努力を続ければ、いつか自分の夢や目標が達成されること、なりたい自分になれること、充実した人生を送れることを固く信じることです。それがどう達成できるか今は見えなくても、スティーブ・ジョブスが言ったように、将来後ろを振り返って点と点が線で結ばれることを固く信じて、努力を継続することです。どんなに辛い時でも成功を信じてください。失敗のどん底にある時こそ信じてください。すべてを失っても、信念だけは失わず、努力を続けてください。

    小野さん、お久しぶりです。
    去年、六本木ヒルズのセミナーでお世話になった、はむぽんです。

    小野さんの記事やセミナーが原動力の一つとなり、自分もアメリカ博士課程留学、そして遥かなる宇宙を目指すことを決意しました。

    このお言葉、胸に突き刺さりました。
    今やっていることが、どのように将来につながっていくか。
    確信など持てません。

    それでも、いま打てる点を精一杯打ち続けることが出来る人だけが、自分が望む未来を手にすることができるのだと思いました。

    やりたいことを胸に秘めたまま、何も行動に移さず、安易な安定を求めて周りに流されて何となく就活し、なんとなく就職する。そして入社後、後悔する…

    これほどハイリスクなことはないと思います。

    今年度、思い切って休学し、この春からカナダとアメリカに武者修行と見聞を広げる留学に出かけます。信念、わくわく感、そして志を持って、外国で大いに学んできます。

    「今、これから自分がやろうとしていること(留学、勉強など)に、もっと自信を持っていいんだ!自分はこれから、凄いことを成し遂げに行くんだ!」

    先の見えない不安を前にしぼみかけていた自分に、この記事は確かなエネルギーをくれました。小野さん、素敵な記事を、本当にありがとうございました。

    JPLやボストンにも、見学で訪れる予定です。
    その際、小野さんともぜひ再び、お話させて頂きたいと存じます。
    それが実現しましたら、この上なく嬉しいです。

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