冬の散歩道

Posted on Posted in 日々徒然

Time, time, time, see what’s become of me
While I looked around
For my possibilities
(時、時、時よ、僕を見てくれ
自らの可能性を追い求めているうちに
どんな風になってしまったかを)

就職活動を始めた。卒業まであと一年半、日本に帰るかアメリカに残るか、そもそも就職するか研究を続けるのか、道を迷いに迷っている真っ只中だ。だからこそ、自分にどのような可能性があるのか見極めたく、就職活動を早めに始めることにしたのだ。11月の週末に日系企業が大挙してやってくる「ボストンキャリアフォーラム」というイベントがあった。慣れないスーツにネクタイで首を絞め、他の大勢の同じ格好をした就活生たちに混ざった。

I was so hard to please
But look around, leaves are brown
And the sky is a hazy shade of winter
(僕は満足などできない人間だった
でも周りを見てごらん、木の葉は茶色
そして空には霞んだ冬の陰)

MITへ来た頃、将来の夢は単純明快だった。宇宙開発の現場で働くこと。しかしやがて、政治に振り回される宇宙開発の現実を思い悩むようになり、それが本当に自分の一生をかける価値のある仕事なのか、疑問を抱くようになった。日々の仕事がどんなに楽しくても、それを40年続けた後に過去を振り返って、これが世の中の何に役に立ったのだろうと虚しさを感じるようなことだけはしたくない。

生きがいが欲しい。自分はこのために生きているのだと本音で堂々と言いたい。客観的に定義され得る存在価値が欲しい。毎日を、惰性ではなく、目的を持って生きたい。そして死ぬときは自分の人生に満足して死にたい。

Hear the Salvation Army band
Down by the riverside, it’s bound to be a better ride
Than what you’ve got planned
Carry your cup in your hand
(救世軍バンドの演奏を聴きながら
河原を歩けば、君の計画よりも
気分の良い散歩道になるだろう
コップを片手に持ちながら)

就職面接では、自分がその会社にどう貢献できるかを明快に説明できるように準備しておけ、と先輩にアドバイスされた。だから僕は、十の会社に対して少しずつ異なる十の答えを用意した。もちろんそれらは全て、嘘偽りない自分の本心である。しかし一方で、それらは自分のほんの一部分でしかないとも感じる。自分を切り売りしているような感覚がふとしてしまった。そして、たとえその十個の答えの和を取っても、依然自分の全てはカバーされていないと思う。いや、待て、「自分の全て」とは一体なんだ?それを表現しきったことが、今までに一度でもあったか?

And look around, leaves are brown now
And the sky is a hazy shade of winter
(周りを見てごらん、木の葉は茶色
そして空には霞んだ冬の陰)

昨年就職活動を終えた友人を捕まえて、「なにか、日々の仕事が楽しくて、やりがいがあって、俺が持っているものを全て生かせるような仕事はないかなあ」と軽い口調で聞いた。
「そんなん、あるわけねえよ」と、彼は投げやりに答えた。

ウクライナ人の友達がいる。彼女はMIT数学科の学部を卒業し、数年間ウクライナの故郷の町の通信会社で働いた後、MITの大学院に戻ってきた。その通信会社の仕事は面白かったか、と聞くと、彼女はこう答えた。「あの場所ではね、仕事の選択肢がほとんど無いから、面白いか面白くないかなんて問題じゃないの。生きるために働く、ただそれだけよ。」

Hang on to your hopes, my friend
That’s an easy thing to say, but if your hope should pass away
It’s simply pretend
That you can build them again
(「希望を絶やさぬのだ、友よ」
そう言うのは容易いけれども、もし希望が消え去ってしまったならば
もう一度希望を作り上げられるようなフリをすればいいのさ)

どの会社の採用担当の人たちも、自分の会社の素晴らしさを僕に熱心に説く。それを聞くうちにその会社で活躍する自分のイメージが湧いてくる。しかし一方で、社会人の先輩や友達と飲みに行けば、ほとんどの人は多かれ少なかれ現在の仕事への不満を並べる。それを聞くうちに、その会社で煮え切らないモチベーションのまま日々の仕事に追われ、人生を浪費していく自分のイメージが湧いてくる。とはいえ採用担当の人たちもきっと、友人と飲めば上司や組織への不満をぶちまけるのだろう。僕の先輩や友人たちもきっと、就職面接の場では学生に我が社の魅力を語るのだろう。当たり前じゃないか、本音と建前を使い分け、建前から本音を見抜くのが世渡りだ。自己の分断と多面性の獲得こそが社会人たる必要条件だ。ナイーブな思考は用を成さないのだ。

Look around, the grass is high
The fields are ripe, it’s the springtime of my life
(周りを見てごらん、草は高く生い茂り、
大地は豊かに実る。今こそ僕の人生の春なのだ)

ある会社の面接の対策を練るために、そこで働く友人に「どのような人材を求めているのか」「どういうアピールの仕方は受けるか」などを事細かに質問した。するとすぐに下心を見抜かれ、
「マジメに色々考えているようなら、小野らしくないな。つまんない男になってないか?大丈夫か?」
と言われてしまった。

ある知り合いに、彼が昔働いていた会社について電話で話を聞いた。すると、「小野さんがあそこで働くなんて勿体ない。もっとでかいことをしなさい。」そう諭された。でっかいこと。具体性が皆無なこの言葉ほど、僕の心を魅了するものはない。「でっかいこと」をすれば、僕の人生は満たされるのだろうか。

Seasons change with the scenery
Weaving time in a tapestry
Won’t you stop and remember me
At any convenient time
(季節は風景と共に移り変わり、
時間をタペストリーの中へ織り込んでゆく
暇なときにちょっと立ち止まって、僕のことを思い出してくれないかい?
いつだっていいからさ)

ある会社のディナーに招待され、その席で「十年後の目標は何か」という話題になった。若手社員たちは、先輩社員を指して「○○さんのようになりたい」などと答え、学生たちは「早く仕事を覚えて一人前になりたい」などと答えた。順番が回ってきたとき、何も考えていなかった僕はとっさに”I’m going to be a big man (でかい男になる)”と答えた。ひとりの女性社員が”That’s just a big mouth(単なるビッグ・マウスよ)”と冷たく笑った。

Funny how my memory slips while looking over manuscripts
Of unpublished rhyme
Drinking my vodka and lime
(笑っちゃうよな、未刊の詩の原稿を眺めているうちに
僕の記憶は途切れ途切れになるんだ
ウォッカ・アンド・ライムをあおりながら)

別の会社のディナーで、非常に親身になって話してくれた高い役職の社員がいた。NASAへ行く気はないのかと彼に聞かれ、僕は本心のままに宇宙開発に対して抱くジレンマを話した。すると彼は、映画「踊る大走査線」の和久刑事の台詞を引用して、こう言った。
「正しいことをしたいなら偉くなれ。」
その言葉は、何の引っ掛かりもなく僕の腑に落ちた。五年前の僕は、その言葉を腑に落とさなかっただろう。

I look around, leaves are brown now
And the sky is a hazy shade of winter
(周りを見てごらん、木の葉は茶色
そして空には霞んだ冬の陰)

自分の両親の歩んだ道を考える。僕の父親は大手メーカーの雇われエンジニアだったが、会社の中で一歩一歩着実に階段を登り、遂には大きな責任を持つ立場にまでなった。サラリーマン人生としては十分すぎるほどの成功であろう。「こんな大きな仕事を任されてしまって…」などと愚痴る彼の顔は充実感に溢れている。

間もなく還暦を迎える母は、結婚前は高校教師をしていた。子育てがひと段落したら教壇に戻るつもりもあったようだが、ひと段落などする間もなく、気付けば28年間を主婦として過ごした。そんな母がふと、「私の生き甲斐は雅裕とアスミ(僕の妹)だった」と言ったのを聞いた。その時の彼女の顔に後悔や迷いは無かった。

Look around, leaves are brown
There’s a patch of snow on the ground…
(周りを見てごらん、木の葉は茶色
地面には雪が積もりだした)

人生とは何なのだろう。生き甲斐とは何なのだろう。何をすれば子供たちにハリボテではない夢や希望を語れるのだろう。そして、何をすれば満足して死ねるのだろう。ある一つの選択肢を考える。自分はそこで大きく成功し、生き甲斐を感じながら仕事に取り組む毎日を送れるに違いないという自信と、いや、結局はレンガの一ブロックとして小さく終わってしまうのではないかという不安が、「進め」「止まれ」を繰り返す信号機のように、交互に僕の胸に浮かんでは消え、現れては隠れる。そこで別の選択肢を考える。全く同じように、やはり自信と不安が交互に胸を支配する。

Look around, leaves are brown
There’s a patch of snow on the ground.
(周りを見てごらん、木の葉は茶色
地面には雪が積もりだした)

全ての面接が終わった日曜日の午後、肩の荷が下りた僕は、外したネクタイを鞄に突っ込んで、徒歩でダウンタウンへ向かった。もう師走も近いのに、生ぬるい空気を春一番のような突風が掻き乱す変な天気だった。慣れない革靴に足が痛むのでゆっくり歩いたのだが、友達との待ち合わせよりもずいぶん早くダウンタウンの公園に着いた。木に最後まで残った葉が強風に舞っていた。スタンドで揚げパンを買い、ベンチで頬張った。夏の間は涼しげに池を泳いでいたカモたちもすっかり姿を消し、冬篭りの準備に熱心なリスたちはせわしなく木と木の間を駆け回っていた。

Look around, leaves are brown
There’s a patch of snow on the ground..
(周りを見てごらん、木の葉は茶色
地面には雪が積もりだした)

人生なんて結局、スタート前に設計できるほど単純なものではないだろう。その意味は走りながら見つけていけばいいのかもしれない。道の選択は巡り会わせと直観か。一方で、後悔を蓄えながら生きる人や、出た賽の目の意味を後からでっちあげて後悔を隠そうとする人には、僕は決してなりたくない。だからこそ、僕は自信を持って道を選ばなくてはならないのだ。その自信が、まだ僕にはない。そして、自信は勝手に湧いて出てくるものではないことを、僕は良く知っている。結局僕は、あと一年半の学生生活を頑張って、さらに経験と知識を積み上げていくしかないのだろう。そうするうちに、僕はあるひとつの道を、自らの意志で選ぶ自信が得られるだろうか。

(Hazy Shade of Winter – words by Paul Simon, 和訳:緒野雅裕)

4 thoughts on “冬の散歩道

  1. ボストンキャリアフォーラムか。2年前にいったな(遠い目)
    その時にもらった128MBのUSBスティックがなぜか今でも現役で活躍中。ディナーがでたということは金融系かな?

    偉そうに聞こえるかもしれないけど、入社1年で転職することになった拙者から一言アドバイス。

    自分がいっぱい合わせなければいけない環境は、自分に向かない環境。
    自分に合う会社、必要としてくれる会社を選ぶべき。

    有名な、行きたかった会社に蹴られたとしても、それは能力が足りていたのに相性が悪かっただけかもしれない。入社後にお互い不幸になるなら、あらかじめその道を断ってくれたことに感謝すべき。(本当は実力不足かもしれないけど)

    とはいっても、一社しか受からなかったり先立つものがなくなると、多少ブラックでも凌がなければいけないが、次を考えながら凌げばいいさ。

  2. ピンバック: だぶんしんぶん。

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