夏が行く/帰省

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bostonsummer

日本への帰省を明後日に控え、溜め込んだ締め切りに追われている。おおよそのものは片付けたが、飛行機に持ち込むことになりそうな仕事もいくつかある。今日は共同研究をしている研究室にプレゼンテーションをした。終わった後、疲れに負けて研究室のソファーに横になった。いつの間にか熟睡して、起きたら午後七時だった。空腹を感じ、研究室を出て寮へ向かった。

ボストンは今、一番清々しい季節を迎えている。緯度が高く日が長いので、午後七時でもまだまだ昼間だ。ちぎれ雲を浮かべる薄いブルーの空はなんとも爽やかで、空気は暑いけれども、東京の夏のように肌にまとわりつく感じはない。通りを歩く女の人が見せる肩、川面で風を受ける白い三角帆、この開放的な雰囲気が僕は大好きだ。しかしボストンの夏は短い。僕が日本から帰ってくる8月終わりにはもう秋の気配が漂いだす。僕にとってボストンの夏は、あと1日だけになってしまった。

研究室から寮へ帰る途中にスーパーへ寄った。いつもより小さいサイズの牛乳と、一番量の少ない鶏肉のパックを選んで、レジへ持っていく。帰路、赤信号無視をしようとタイミングを見ていたら、自転車の兄ちゃんが大声で説教を垂れながら通り過ぎていった。歩道を歩いていると、道の反対側から僕に向かって大声で何かを叫んでいる人がいて、振り返ると彼は急に恥ずかしそうな顔をして黙った。人違いだったらしい。

今年も短い夏だった。学会に、二度のフロリダ、ニューヨーク、相変わらずよく旅行した。Thesis Proposal Defenseを終え、ちょっとした研究のアイデアが閃き、なかなか良い結果を得た。短い論文が一本受理され、9月のギリシャでの学会に行けることになった。週末はあちこちのパーティーに勤しんだ。こうして書き並べれば、充実した夏だったと言えるだろう。でも僕の胸にあるのは、夏の真昼のように飽和した充足感ではなく、むしろ秋の夕方のような寂寥感だ。

寮に着き、郵便受けを開けた。かわいらしい字体で宛名が印刷された封筒があり、開封すれば、また募金のお願いだった。給料を貰うようになって、いくつかの募金プログラムに参加したのだが、そのせいで僕は慈悲深い人だと思われたのか、そこらじゅうの名も知らぬ慈善団体から募金をせがむ手紙がわんさか来るようになった。「この国にはどれだけ慈善団体があるんだ」と毒づき、その手紙をゴミ箱へ棄てた。散らかった部屋に戻り、Eメールをチェックしたが、何も面白いメールは来ていなかった。汚れた台所で親子丼を作りながら、朝の食器を洗った。テレビでは「大統領の成績表」という番組が、オバマのアフガニスタン政策を批判していた。

夏が終わっていく。時間は何の取っ掛かりもなく、さらさらと水のように指の間を通って流れ出ていく。爽やかなボストンの夏の景色は、自分がその中に立っているのではなく、スクリーンに映された映画のようで、僕はただそれを椅子に座って見ているだけのような気がする。きっとそれは、今の僕には、一緒に川原に座って景色を眺める人がいないからではないか、と思った。過去を振り返り、今の自分と比べてみて、惨めな気持ちになったあとで、そうしたことを後悔した。

夕食を終え、食器を流しに置いて洗うのは後回しにし、パソコンを開けて、この日記を書いた。明後日の出発までに片付けるべき仕事のリストを頭の中に書き出し、優先順位をつけ、このあと寝るまでの数時間に何をこなすべきかを考える。外はもう暗くなった。窓から吹き込む夜風が涼しく、気持ちよい。

日本へ帰るのが楽しみだ。僕の帰りを待っていてくれる家族がいて、僕と飲むためにわざわざ東京へ出てきてくれる友達もいて、なんと僕は幸せなのだと思う。体を焼くような太陽の熱、肺を焦がすような空気、鼓膜を圧迫するセミの声、乾かない汗、あの東京の夏にもうすぐ帰れると思うと、胸が高鳴る。

ボストンでの四年目が終わった。

[追記: 8/10] 昨晩、東京に着きました。冷夏でした。。。。

One thought on “夏が行く/帰省

  1. こんにちは。いつもブログ楽しみに見てます。
    ボストンの夏の景色感と、おのさんの心情が文章から感じられて、なんだかとても切ない気持ちになりました。それはきっと、私も留学時に同じ想いをしたからかもしれません。自分が感じた充足感は、共有する相手がいないと物足りなく感じるのは常なのかもしれません。そんな侘しさに直面するのが、「留学」における自分の成長の糧となることは、後から分かることだと思います。「今」の心の状態をいうと、大変なこと、つらいことも多いんですが、その先にあるもの、自分が向かおうとしているものを見据える意識を失わなければ、絶対に大きく前進・成長していけますよね。おのさんの文章から、そういう希望が少しでも感じられるから、すごいな、と改めて思います。素敵な記事、いつもありがとうございます。日本楽しんできてくださいね。

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