「怖い国」「ヤバい国」「抑圧国家」。アメリカ人がキューバに対して持つイメージは、ちょうど日本人が北朝鮮に対して持つイメージのようだと言ってよいでしょう。海を隔てた目と鼻の先にある、反米、独裁、社会主義国家。核兵器のごたごたを起こしたのも同じです。
しかし、キューバを自分の足で歩き、自分の目で見て、そんなイメージは真実のほんの一部分しか捉えていなかったことを知りました。
キューバ人は、他のラテンアメリカの国の人たちと同じく、とても陽気で、フレンドリーで、適当、悠長、かつエロエロです。国民は概して政治に関心が薄く、興味の中心は野球、レゲエ、サルサ、そしてお尻の大きいお姉ちゃん。思想を規制し行動を監視するような風潮もなく、祭りではロックバンドがアメリカの音楽を演奏していたし、泊めてもらった家ではアメリカの映画を家族で観ていました。治安も非常に良く、夜中に街を一人歩きしても何の問題もありません。
社会主義国家にありがちな指導者への個人崇拝も行われておらず、カストロの銅像なんてどこにもないし、お札の肖像画にもなっていない。新聞やテレビが政府を批判することは禁止されているけれども、車や家の中ではみんな口々にカストロの悪口を言い合っていました。
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「怖い国」「ヤバい国」「抑圧国家」。そんな風にアメリカ人に思われているキューバで、人々はどんな暮らしをしているのか。彼等の横顔を、撮り溜めた写真で紹介したいと思います。
ハバナの海岸にたむろうオジサンたち
“NO TOCAR LOS PERROS” = 「犬に触るな」
道端で英語を勉強していたおじさん。練習相手になってくれ、と呼び止められた。過去にアメリカに亡命しようとして失敗したことがあるらしい。
日曜の午後、ハバナ旧市街の広場、子供達がかわいらしい劇を披露していた。
学校の校庭を覗くと、生徒達が放課後にダンスの練習をしていた。
ハバナ旧市街にて
ヘミングウェーの旧家の前で、野球をしていた子供達。
僕のガイドブックに興味津々。
サンタ・クララの広場。
レメディオス、簡素な移動遊園地。
キューバではドミノが非常に人気のあるゲームだ。
レメディオスの祭りの風景。
コックをしているライネル君は、非常に流暢な日本語を喋る。彼が日本語の勉強を始めた理由は、漫画が好きだから。将来は日本語を生かせる仕事に就きたいと言っていた。
「アチョーッ!!」 道端で絵を描いていたオッサン。カメラを向けると、とっさに謎なポーズをした。
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僕がキューバで出会った人たちの屈託のない笑顔は、「怖い国」「ヤバい国」「抑圧国家」、そんな、アメリカ人がキューバに対して一方的に抱く灰色のイメージとは、かけ離れたものでした。アメリカの政府やマスコミは、「反米国家・キューバ」の危険を宣伝するために、大勢の人が写っている写真の中から怖い顔、怒った顔のみを切り抜いて、大きな絵の中から灰色の部分だけを切り抜いて、それを継ぎはぎして作ったコラージュを、テレビの電波で流します。そうやって、キューバのネガティブな面ばかりが強調された、偏ったイメージが作り上げられるのです。
では、日本人が抱く北朝鮮のイメージは、どうでしょうか。「カメラが捉えた北朝鮮の真実」などという安っぽいタイトルで、お昼のワイドショーがしきりに北朝鮮の貧困や抑圧、将軍様への個人崇拝、そんな映像を放送しています。さらに、低い声の女性の、おどろおどろしいナレーションが付け加えられ、怖ろしいイメージを増長させます。
もちろん、それらは決して嘘ではないでしょう。監視と抑圧の下で苦しみ痛めつけられている人々が大勢いることは事実でしょう。しかし、テレビが伝える映像だけが、本当に北朝鮮の全てでしょうか。もしかしたら、僕らが無批判に受け入れている映像は、実は視聴率を稼ぐために、大きな絵の中からセンセーショナルな部分だけを切り抜いて、つぎはぎして作ったコラージュであったりは、しないでしょうか。
僕は北朝鮮の肩を持つわけでは決してありません。しかし、テレビが植えつける偏った先入観に支配された結果、本当ならば分かり合える筈の人たちを、不必要に遠ざけるような愚も、犯したくはありません。
テレビの映像を無批判に受け入れることの危険性。自分の足で歩き、自分の目で物事を見ることの重要性。この二つを、キューバの例を以って、訴えたいと思います。
2 thoughts on “キューバ人の横顔/テレビが作り上げるイメージ”
この日記も段々偏りがなくなってる、と感じるのは
ひろがそれだけ色んなものを今でも見て感じてる証拠なのかな。
キューバのことは、確かに良く知らない。
目からウロコ、という感じです。
特に、
日本に流れる情報というのは、
ただでさえアメリカやイギリスなんかをソースとする情報で、
しかも、マスコミのフィルタもかかっている。
意識していても、全てを取り去るのは不可能。
キューバというと野球、と言う以上には正直あまりわからない。
現場で現物、人を見るのは大事なことだよね。
はじめまして。
mujigeと申します。
アメリカでのキューバのイメージは、日本での朝鮮のイメージにそっくりですね。
2006年の朝鮮の核実験とき、ちょうどボランティア団体の一員として朝鮮に滞在していました。そのときの旅行記をブログにアップしましたので、よろしければご覧になってください。
「核実験の日、ピョンヤンにて」―朝鮮はなぜ核実験をしたのかhttp://d.hatena.ne.jp/mujige/20090525/1243237413