「犬 痴呆 鳴く 迷惑 保健所」

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アクセス解析を見たら、「犬 痴呆 鳴く 迷惑 保健所」という検索キーワードでこのブログに辿り着いた人がいたことを知った。

飼っている犬が老いて、呆けて、鳴いて、手に負えなくなって、保健所に持っていこうとしているのだろうか。人それぞれ、犬それぞれ、いろいろな事情があるだろうから、巷に流布している道徳を無理やり押し付けて、「それはいけないことだ」と断罪することはできない。人間と違って犬は老人ホームに預けるわけにはいかないし、仕事があるから一日中介護できない、鳴いてご近所に迷惑になる、そんな仕方ない理由があったのかもしれない。

それでもやはり、僕は過去に可愛がっていた犬を失った経験を持つだけに、このような検索ワードで飼い犬の処分方法を探している人がいたことを知ると、なんとも悲しい気持ちになってしまう。

チコちゃん

間違いなく世界で一番かわいい犬だったチコちゃんが死んだのは、もう三年半も前のことだった。キャバリアという犬種は生来心臓が弱い子が多く、チコちゃんも例に漏れずに心臓病を患っていた。

その日、チコちゃんが急に悲鳴をあげて倒れ、母と妹が慌てて病院に連れて行った。酸素吸入と注射で小康状態を取り戻した後、病院の先生はその後の処置について、母と妹にこう尋ねた。
「もし今晩入院させれば快方に向かうかもしれないが、夜のうちに死んでしまう可能性もあります。しかし、もし家に連れて帰れば、おそらく今晩も持たないでしょう。どうしますか?」

どうしようか迷っている母と妹に向かって、チコちゃんは酸素室の透明な容器の内側から、目でこう訴えたそうだ。
「寂しいよ、置いて行かないでよ。」
それを見て、二人はチコちゃんを家に連れて帰ることに決めた。そして、酸素室から出し、母が抱き上げた瞬間、チコちゃんは目を見開き、手足を硬直させ、そして力を失った。一番好きだった母の腕の中で迎えた、最期だった。

僕がチコちゃんの死を知ったのは、バイトから帰宅したあとだった。その晩はお気に入りだったリビングルームの寝床にチコちゃんを寝かせ、それを家族四人で囲み、泣きながら彼女の思い出を語り明かした。

「ああやって寝ている姿、生きている時とちっとも変わらないね。あの怠け犬は、一日中あそこ寝ていたもんね。」
「キッチンの裏の犬小屋よりも、みんなが見えるあの寝床が好きだったんだよね、チコちゃんは寂しがりやだったから。」

翌朝、父が仕事に出る前に、家族四人で庭にチコちゃんを埋めた。小さなチコちゃんが入る穴は、すぐに掘れた。穴の底にタオルに包んだチコちゃんを寝かせ、好物だった鳥のササミと、「さくうま」という犬用スナックを、たくさん添えてやった。
「そんなに山盛り、チコちゃん食べきれないよ。」
と妹が言うと、皆、泣きながら笑った。

最後に、タオルを少しめくって、顔を見た。本当に可愛かった。手で少しずつ土をかけていったのに、あっという間にチコちゃんは見えなくなった。

そんなことを思い返すにつけ、チコちゃんは本当に幸せな犬だったと思うし、僕らも本当に幸せだった。たった九年の短い命だったけれども、最期までチコちゃんと一緒にいれた幸運は、どんなに感謝しても足りないくらいだと思う。

「犬 痴呆 鳴く 迷惑 保健所」、こんな検索ワードを見つけたとき、保健所の暗く狭いガス室の中で、他の大勢の犬達に混じって、震えながら鳴いているチコちゃんのイメージが、ふと脳裏によぎった。彼女はこう、目で訴えていた。

「寂しいよ、置いて行かないでよ。」


追記: 前述の検索ワードに引っかかったのは、恐らくこの記事

2 thoughts on “「犬 痴呆 鳴く 迷惑 保健所」

  1. くろきさん>やばいこれ、号泣です。。。そういえばチコちゃんを海に連れて行ったこと、なかったな。

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