アメリカ大統領予備選挙 – Obama Phenomenon

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アメリカ大統領予備選挙、面白すぎる。いままで選挙がこんなに面白いものだとは思いませんでした。

大統領選挙 = アメリカ第5のプロスポーツ

民主党、共和党が半年をかけて全米50州を回り、50回の予備選挙を行う。そして各党の予備選挙を勝ち抜けた一人ずつが、11月の本選で一騎打ちをし、勝者が大統領になる。これはさながらプロスポーツです。つまり、セ・リーグとパ・リーグが半年間のリーグ戦を戦い、その勝者が日本シリーズで激突する、という構図と同じです。選挙演説はバスケットボールのアリーナなどを借り切って行い、何万人もの観客を動員する。客は候補者の言葉のひとつひとつに手を叩いて声援を送り、決めゼリフを発した直後はホームランを打ったような大盛り上がりになる。その模様は生中継で全米に放送され、朝晩のニュースで繰り返し流される。

今年の選挙戦をさらに面白くさせているのは、言うまでもなく民主党予備選での、バラック・オバマ上院議員の猛烈な追い上げです。

The Obama Phenomenon

つい数ヶ月前まではヒラリー・クリントンに支持率で大差をつけられていたオバマが、リーグ戦の天王山・Super Tuesdayで引き分けに持ち込み、昨日の「ポトマック川決戦」で遂にクリントンを逆転しました。 “Obama phenomenon (オバマ現象)”や”Obama surge (オバマ旋風)”とマスコミは呼びます。クリントンは、オバマ優勢が伝えられる来週のハワイ、ウィスコンシンを早くも諦め、彼女の支持基盤であるヒスパニックやブルー・カラーが多い三月のテキサス、オハイオに選挙活動を集中し、Firewall (非常線)を張りました。

クリントンは言わずと知れた前大統領の妻。すでに敗北宣言を出したエドワーズは2004年の民主党副大統領候補。他方の共和党でトップを走るマケインはベトナム戦争の英雄で、24年も国会議員を務める重鎮。こんなそうそうたる顔ぶれのなかで、オバマは当選回数たった1回、46歳の若造。「小泉チルドレン」と大差ない経歴です。そんな彼がなぜ「オバマ旋風」を起こすまでになったのか。

最大の理由は、彼の感動的なまでの演説の上手さです。彼が並べる言葉は、「アメリカをひとつにする」「ワシントンを民衆の手に取り戻す」など、文字に書いてしまえば平凡で抽象的なことばかり。にも関わらず、彼がこの言葉を発すると、なぜか鳥肌が立つほどの興奮を人々に与えるのです。

“Our time has come”

びっくりしたのが、Super Tuesdayの晩の演説でした。選挙速報が伝える予想は両者ほぼ互角で、獲得代議員数では僅かにクリントンが優勢だったものの、勝った州の数ではオバマが優勢でした。クリントンは「私はニューヨークで勝った、カリフォルニアでも優勢だ・・・」と、自分の勝ちを強調し、支持者を盛り上げます。

一方のオバマは、演壇に上がってまもなく、「我々は今日の開票結果を待つ必要はない。」と言い放ちます。あっけに取られる聴衆に向かい、こう続けました。
「開票結果を知らずとも、たったひとつ、確かなことがある。」
静まり返る聴衆。しばらく間を取ったあと、彼は高らかに宣言しました。

“Our time has come.” (「時は来た。」 完了形であることがポイント。)

瞬間、聴衆は狂喜乱舞です。僕もテレビで見ていて、鳥肌が立ちました。しかし冷静に考えれば、Super Tuesdayの結果は引き分けとしか言いようがなく、”our time has come”とは、たいへんな大ほら吹きです。しかしそんな「大ほら」も、なぜか彼が言うと説得力が伴う。その後、テレビのニュースは “our time has come”の部分を繰り返し放送し、それはあたかもオバマが勝ったかのような印象を与え、その勢いを駆って彼はSuper Tuesday後の予備選挙を7連勝しました。

これはもう、カリスマと言うほかないでしょう。

草の根運動に支えられたカリスマ

票集めと共に、選挙資金集めも重要な選挙活動です。今までに集めた選挙資金の累積総額では、クリントンが$118M ($1M = 100万ドル = 約1億円)で、オバマの$104Mに勝っています。しかし、今年の1月に集めた金額を見ると、オバマの$32Mに対し、クリントンは$17.5Mしか集まらず、さらに$5Mの借金まで作ってしまいました。資金面でもオバマは猛チャージをかけているのです。

この猛チャージの理由は、資金集めの方法の違いにあります。クリントンは古参の民主党支持者からの、大口の献金に頼っています。一方のオバマは、インターネットなどを通し、小口の献金を広く大衆から集めています。いわば「草の根」的な運動をしているわけです。

しかし、金持ちを味方につけたクリントンよりも、なぜ「草の根」運動に頼るオバマが強いのか。 実は、予備選挙の候補に対する個人献金の上限は$2,300まで、と法律で決められているのです。つまり、クリントンが頼る大口の献金者たちはすでに上限の$2,300を投じてしまい、これ以上献金したくても献金できないのです。一方のオバマは、インターネットを通して、5ドル、10ドルの単位で資金を集め続けています。これが彼の強みです。

正直、どっちでもいい?

“Obama phenomenon”のもうひとつの原因は、票の流動性です。オバマとクリントンの間には、政策にそこまで大きな違いはありません。オバマ支持者もクリントンを嫌いなわけではなく、クリントン支持者もオバマを嫌いなわけではない。嫌いなのは、ブッシュであり、共和党であり、ネオコンなのです。

クリントン支持という寮の隣人に理由を尋ねたところ、「今年の大統領選は、みんなブッシュと共和党が嫌いだから、クリントンでもオバマでも、おそらく民主党が勝つだろう。オバマのカリスマは民主党が劣勢の時にこそ必要となる。だから、オバマは今回は温存するべきだ。」とのこと。代打の切り札・八木を温存するような論。つまり、絶大な人気がある両候補から一人を選ぶ理由は、その程度しかないのです。

だから、小さなきっかけで票は流れる。「旋風」は、票をクリントンからオバマの方へ、やすやすと押し流しているわけです。逆に言えば、クリントンも流れを取り戻すチャンスが十分にあるということになります。

リーグ中盤になっても、二人がゲーム差なしで並ぶ緊迫した展開。これはまだまだ楽しめそうです。

緒野はオバマ支持

僕自身は、オバマを支持しています。とはいえ僕の支持の理由も、政策ではありません。そもそもアメリカの健康保険や移民政策がどうなろうと、僕には大した影響はありませんしね。理由は、僕の言葉で語るよりも、以下のオバマの言葉を引用した方が簡明でしょう。

「どの候補も変革を訴えている。クリントンも、共和党のマケインすらも変革を訴えている。重要なのは、誰が実際に変革を起こせるか、だ。」

その通りだと思います。日本でもアメリカでも、自民党でも民主党でも、リベラルでも保守でさえも、「今の制度で満足している、何も変えない」などという候補はいません。時代の変化に合わせた変革は常に必要であり、それを実現するリーダーを民衆は求めているのです。

しかし、「変革」とは、大統領や首相ひとりの力でできるものではありません。世論が、民衆が行動を起こして初めて、変革は実現可能になります。 そして、頑固で腰が重い世論を動かす力の源こそ、カリスマ性でしょう。カリスマとは、平凡な言葉に魔法をかけて説得力を与え、人々を熱くし、納得させ、行動を促す力です。そして、その大衆の行動こそが、変革を実現する力なのです。

僕は彼のリーダーシップ、カリスマに期待しています。

Obama Girl

余談ですが、こんなビデオが少し前にyoutubeで流行りました。「オバマ・ガール」と名乗るセクシーな姉ちゃんが、お尻を振りながら、「オバマに惚れたわ?」 (get crush on~ は、?に惚れる、熱くなる)と歌っています。

調子にのって、“Obama Girl v.s. Giuliani Girl” というビデオまで出ました。Giulianiとは、もう降りてしまった共和党の候補で、前NY市長のジュリアーニです。

5 thoughts on “アメリカ大統領予備選挙 – Obama Phenomenon

  1. この2人(ヒラ栗、オバマ)が大統領と副大統領で組んで出ればいいのに、
    と選挙素人の私は思ってます。難しいことは分からないので単純に。

    それにしてもそんなカリスマが学んだボストンで、それもすぐ近所で学べているのは幸せというか改めて素晴らしい環境ですね。
    そして我が家からは、たったの15分の場所にヒラリー家があったりします。

    ヒラ栗嫌いの夫は選挙結果に一喜一憂。大騒ぎで大変です。
    俺は阪神ファンだから巨人みたいな金持ちが嫌いだ!という彼の口癖、なんとかして???笑

  2. ヒラ栗と小浜が組んで出る可能性はもちろんありますよ。ただ、今はまだ、副大統領候補を考える段階にないだけです。共和党でMcCainに大差を付けられながらも粘っているHuckabeeの狙いは、McCainの副大統領候補ではないか、という憶測もあります。

    俺も阪神ふぁんですよ?、しゅーたさんとは気が合いますね。

  3. クリントンサイドの選対本部長・副部長解任の件についても書いて欲しいでーす。

  4. kikoさん>僕も、「辞めた」ということ以上は知りません。どうして二人は2日間空けて辞めたんでしょうね。混乱しているのでしょうか。

  5. Obama Girlにはお金かけてますからね。そりゃそうでしょう。大統領選ビジネスという言い方がきっと正しいのでしょうね。というわけで、何となく私の中で分かってきたのは、選挙をやらないと食いはぐれる人がいるから、一年中選挙、選挙とやっているんでしょうね。選挙やってない週って日本でも珍しいし。そんなもんなんですね。

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