せっかちな猫背

Posted on Posted in しんみり

週末、父親がボストンを訪ねてきた。先週はサンフランシスコ、今週はニューヨークで仕事があるとかで、その間の週末にボストンに寄ってくれたのだ。

土曜日の夕方、空港まで迎えに行った。ロビーのベンチに父は座っていた。相変わらずの猫背。会うたびに量が減ってゆくボサボサの髪。週末だというのにスーツに革靴。たまにカジュアルな服を着ても、母にファッションセンスをこき下ろされるだけなので、結局スーツが一番着心地がいいのだろう。

僕の姿を認めると、父は満面の笑みで立ち上がり握手を求めた。バスに乗り、地下鉄でMITに向かう途中、父は五回くらい「元気にしてるか」と聞いた。そのたびに僕は笑いながら、「おう、ピンピンだよ」などと答えた。「明日は何を見ようか」と言いながら取り出した地球の歩き方は図書館からの借り物。社費でビジネスクラスに乗せてもらえるくらいのご身分なんだから、買ってしまえばいいのに。「だって1週間しか使わないんだ、勿体ないだろ。」折り紙つきのケチだ。

ホテルに荷物を置いて、シーフードレストランへ。そういえば父と二人きりで外食なんて、今までに一度もなかった気がする。僕の将来の話。父の昔の研究の話。いままでお互い恥ずかしくて避けてきたマジメな話を、ビールを飲みながら一気に話した。父が、「人生で一番面白かったのは・・・」なんて話すのが、新鮮でもあり、寂しくもあった。

レストランを出て、軽く研究室を見せたあと、僕の部屋に案内した。「ぐちゃぐちゃな部屋だな」と言いながら、嬉しそうに写真を撮った。「お母さんに、ヒロの汚い部屋の写真を撮ってくるように言われてるんだ。」母に23年間「部屋を片付けろ」と言われ続け、結局キレイ好きには育たなかった。なんだかんだで母は、僕に「片付けろ」と怒鳴ることに生きがいを感じていたのだろう。

「老人は早寝早起きなんだ」と言って、10分くらいで僕の部屋を出た。もう少しゆっくりしていけばいいのに、相変わらずのせっかち。ホテルまで送り、その晩は別れた。

翌日はボストン美術館へ行った。見知っている展示品があるとウンチクを垂れずにはいられない。頻繁に地図を見て、常に現在地を把握しないと落ち着かない。どちらも僕そっくり。時間が迫るとまだ見ていない場所を通るだけ通って、美術館を制覇した気になるのも同じだ。

チャイナタウンで昼食を食べ、一服したのち、South Stationへ。父のせっかちのおかげで発車時刻の40分も前に到着した。待っている間も常に電光掲示板と腕時計を睨めっこ。改札が始まると名残り惜しさのカケラも見せずにホームへダッシュ。係員が検札をしているところで、父と別れた。「元気でね。」「そちらも。」「それじゃあ。」

せっかちな猫背は、大股でホームの奥へと歩いていった。僕は結局、あの人の子なんだな。そんなことを思いながら、ターミナルへ戻り、両手をコートのポッケに突っ込んで、ぷらりぷらりと地下鉄の階段を降りていった。


追記(2007/7/4):先月、父は還暦を迎えた。親が歳をとるのは、自分が歳をとる以上に速く感じる。最近は、手間のかかる息子が家を出て出来た暇を使って、週末に母とちょくちょく遠出をしているようだ。来年には定年。その後も、持っている資格を使って何か仕事をするらしい。歳を重ねるごとにみすぼらしくなるセッカチな猫背は、僕にとっては、誰よりも頼もしい。

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